iPhoneで利用できるARとは?開発におすすめの「ARKit」とARアプリ10選

世界で最もポピュラーなスマートフォンである「iPhone」ですが、そんなiPhoneの活用方法において最も注目が集まっている機能の一つにARがあります。

Augmented Reality(拡張現実)、通称ARと呼ばれるこの技術はここ数年で一気に普及が進み、多くの業界で活躍するようになりました。

この記事では特に「iPhoneにおけるARの活用」について解説をしながら、具体的なiPhoneで使えるARアプリを紹介していきます。

その背景にある「ARKit」と呼ばれる開発者向けツールの運用方法にも触れていきますので、ぜひご覧ください。

iPhoneでもARが活用できる時代

AR(拡張現実)は、スマートフォンのカメラを通じて現実空間に仮想のオブジェクトやユーザーインターフェイスなどを表示する機能です。iPhoneにおいてはAppleが直接ARの使用や開発を奨励しており、今やユーザー、デベロッパーを問わず多くの人がARを積極的に活用しています。

スマホでARは当たり前

私たちの生活にすっかり定着したとはまだまだ言い難いARですが、そんな日も遠くないということはデータによって明らかになりつつあります。

世界のAR/VRの市場規模は、2021年に494億ドル(6兆円)という規模でしたが、なんと2022年から2030年までの期間で年間成長率(CAGR)40.7%を記録し、2030年には4,535億ドル(55兆円)に達すると予測されています。

国内と海外のAR/VR市場規模予測と本格普及への課題 – XR-Hub
出典:世界AR/VR 市場規模予測、2015年~2025年

比較対象となる「世界のスマートフォン市場」は2027年までに7,953億ドル(98兆円)に達し、2020年から2027年にかけて毎年9.5%成長すると言われており、成長率はAR/VRの方がはるかに速度が速く、これはAR/VRが次の10〜20年でスマホを超えていくような世界最大級の巨大産業に発展していくと期待されるゆえんでしょう。

これまで、VRやARといった新しい視覚技術は専用のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)などを購入しなければならず、運用のハードルは決して低くありませんでした。本体コストがかさむだけでなく、場所やアプリの運用も制限されていたため、いつでも気軽に使える技術ではなかったのです。

しかし、ここ数年のAR技術の進化はもちろん、スマホのスペックの大幅の向上や、5G通信の到来により、状況は大きく変わってきました。

ARはスマホのカメラでも扱えるほど手軽な技術となり、スマホも高スペックモデルを手軽に運用できる上、5G通信で大きなデータを軽々と扱えるようになっています。ARのような多くのパケットと優れたスペックを要求する技術は、当たり前のものとなったのです。

それに合わせ、最新のARアプリも次々と登場するようになりました。技術的には制作可能だったものの、従来スマホのスペックでは動かないようなアプリの数々が普及するようになったため、今では豊富なラインナップを堪能することができます。

ARの活躍の場はさまざま

豊富なアプリからも察せられるように、ARアプリが活躍する分野はさまざまです。ARをまず人々から注目させたのは、「ポケモンGO」を代表とするゲーム分野でした。AR技術をゲームで手軽に体験できるようにしたことで、ARの認知度向上とARの普及に大きく貢献しています。

Pokemon Go

画像引用元:ポケモンGO

ライフスタイルの分野で言えば、Amazonなどが提供している家具を仮想的に自室へ設置しているサービス「Amazon ARビュー」などが挙げられます。スマホでAmazonの公式アプリを立ち上げAR表示に対応している家具を選択することで、カメラを通じて自分の部屋に原寸大の家具を試しに設置することができます。オンラインショッピングではつかみづらい家具のサイズ感を、ARカメラを使って気軽に、そして無料で確かめることができます。

また、ビジネスにおける運用例としては、医療や建設現場における活躍が目覚ましいと言えます。患部をARで患者の体に直接投影し、スムーズな治療環境を整えたり、水道管やガス管の位置をARで実際の場所に照らし合わせて確認し、事故を防いだりといった使い方です。

スマホだけでなく、こういったプロの現場においては、専用のゴーグルの導入も少しずつ進められています。遅かれ早かれ、ARはプロフェッショナルの現場においても欠かせないテクノロジーとなるでしょう。

iPhoneのAR活用には欠かせない「ARKit」

スマートフォン向けのARアプリケーションの開発には、さまざまなツールや環境がサービスプロバイダーから提供されています。iPhone向けのARアプリに関しては、開発者向けに「ARKit」と呼ばれるアプリが提供されています。iPhoneスペックをフル活用できる開発ツールとなっており、多くの開発者から注目を集めています。

開発者から注目を集めるARKit

ARKit4

画像引用元:ARKit

2017年に発表されたARKitはすでに度重なるアップデートを行っており、2020年8月現在4世代目のバージョンとなる「ARKit 4」としてリリースされています。

ARKitは、iPhoneおよびiPad向けのAR開発プラットフォームで、デベロッパーに必要なフレームワークの提供を行ってくれます。通常、ARアプリを一から開発するとなると、フレームワークの開発から行わなくてはならず、膨大な時間とコストがかかります。

しかし、ARKitを使えばAR開発に最低限必要な環境は整っているため、AR開発の準備のためにコストを割く必要はありません。開発者はすぐにARアプリの開発に取りかかることができるため、素早い開発とリリースを行うことが可能です。運用に関しては基本的に無料で利用できるため、初心者からプロフェッショナルまで、幅広いユーザーの利用が可能となっています。

これまでアプリ開発に興味はなかったけれども、ARであればトライしてみたいという人も気軽に利用することができるのは魅力と言えるでしょう。AR開発の難易度を易しくしAR開発の門戸を広げ、さらなるARの普及に努めるのがARKitなのです。

ARKitで使用できる主な機能

ARKitで利用できる機能は、単に誰でも使える最低限の機能にとどまらず、iPhoneやiPadの高いスペックをフル活用できる仕様となっています。

特に最新の「AR Kit4」にはさまざまな機能があります。

AR Kit 4の機能
  1. 平面検出
  2. 周囲の明るさを検出可能
  3. 3次元情報の検出
  4. モーションキャプチャ
  5. 自分の位置情報を検出
  6. AR空間を複数人でシェア
  7. 現実世界のスケールを検出可能
  8. Depth APIで3D物体のマップ上への配置が可能
  9. Location Anchorsで様々なオブジェクトを配置
  10. フェイス・トラッキングが最大3人まで同時対応可能

多くの機能があるため詳細は別記事にて記載しますが、例えば、ロケーションアンカー機能は、位置情報サービスを用いて、広いAR作品の公開や多様なARアプリの開発に役立つ機能に仕上がっています。ロケーションアンカーを使用することで、緯度・経度・高度を自動的に計算し、ARの作品を自由に町中へ配置することができるようになります。

iPhoneカメラでAR作品を表示することにより、まるで本当にその場所に作品が展示されているような体験をすることができます。さまざまな角度から作品を注視し、体験できるようになるのです。

あるいは、複数の顔を認識できる「フェイストラッキング機能」や「モーションキャプチャ機能」も注目に値するでしょう。一度に複数の顔を認識できる能力により、SnapchatやInstagramなどでおなじみの顔を加工して楽しむアプリケーションの技術向上が期待できます。また、モーションキャプチャ技術によって人間の行動を正確に捉えられるようになることで、体全体を使ったAR体験を行うこともできるようになるでしょう。

ARKitを使うことで、もはやシンプルな3Dモデルを使用するような単調なアプリではなく、複雑でエンターテイメント性に溢れる体験を提供することができます。

参考:AR Kitとは?iPhone(iOS)のAR開発キットについて、使い方や最新機能を分かり易く解説

AR開発に注力するApple

AppleはARKitによって、「AppleのデバイスをベースにしたARアプリの開発」に力を入れています。

目の前ではスマホ(iPhone)でのARしか見えていない一方で、次世代のAR体験を届けるためのハードウェアであるARグラスの開発にも力を入れています。

近日登場予定のApple製ARゴーグル

Appleが水面下で開発しているのは、Appleが独自に開発するARゴーグルです。Apple製のARゴーグルについては未だ公式発表はありませんが、コミュニティの間では数年前から話題とされてきたハードの一つで、近日正式にアナウンスがあるのではと言われています。

Appleが開発しているのは、iPhoneやApple Watch同様、ライフスタイルに溶け込む日常使いを想定した次世代のARゴーグルです。軽量製と持ち運びやすさに特化し、そのほかのApple製品とどのようにリンクして使用されるのかという点も注目されています。

ARゴーグルはこれまでもいくつかの製品が発表されており、

  • Googleの「Google Glass」
  • Microsoftの「HoloLens」シリーズ

などが挙げられます。

参考:AR/MRグラスとは?スマートグラスとの違いと、代表的な12種類の解説

しかし、Google GlassはAppleのARゴーグル同様、日常使いを想定したプロダクトであったものの、サポート体制の不十分などから失敗に終わっています。多くの人がAppleのARゴーグルに注目しているのは、AppleがGoogleの二の舞にならないよう、どのように立ち回るのかというところにもあるでしょう。

MicrosoftのHoloLensシリーズは産業用に開発されたこともあり、多くの業種での活躍が期待されています。すでに建設業界などでの導入も進み、こちらもARゴーグルとしての注目度は高いと言えます。

AppleのARグラスにおける最新動向としては、AR/MRヘッドセットのディスプレイテクノロジーに積極投資をしていると言われています。

Appleは革新的なAR / MRディスプレイを開発するために、ユーザーが明るい環境と暗い環境にいるときいずれでも機能するARディスプレイに関する技術や、画面ではなく着用者の網膜に画像を直接送信するAR網膜ディスプレイの技術などを研究していることが明らかになっており、そのうちいくつかは特許申請を提出しています。

スマホの次と目されるARグラスでも、Appleは覇権を取るために粛々と準備を進めていることが分かりますね。

AR周辺技術も拡充

AppleのARゴーグルは、本体の開発だけでなく着々と周辺技術の開発もすでに行われています。例えば、Apple謹製のワイヤレスイヤホンである「AirPods Pro」には、近々立体音響機能が追加されることが発表されました。

充実したAR体験を実現するためには、視覚だけでなく聴覚においても質の高い環境を提供する必要があります。ARの表示角度に合わせて立体的な音響を体験できる機能も追加することにより、さらに進化したARコンテンツの拡充も行われるでしょう。この機能は来たるARゴーグル向けの機能ともされていますが、iPhoneのARアプリとの連動も期待されています。

また、AppleではARゴーグル向けのOS開発も同時に進めているとされ、その動向にも注目が集まっています。

AR開発者向けのプラットフォームだけでなく、AR特化のOSが誕生すれば、Appleは一躍AR時代の第一線を切り開いていくことになるかもしれません。

すぐに体験できるiPhone向けARアプリ

やはりARをどのように扱えば良いのか理解するためには、やはり実際にARアプリを触ってみるのが一番です。

ここからは、iPhone向けにリリースされているARアプリを紹介します。

①Minecraft Earth

Minecraft Earth

画像引用元:Minecraft Earth

大人気ゲーム「マインクラフト」をARで楽しめるように仕上げているのが、こちらのアプリ「Minecraft Earth」です。ゲーム画面の中で楽しめていたクリエイティブな建築や空間の構築を現実世界でも行えるようになり、まるで現実世界をクラフトしているような感覚を楽しむことができます。実際の空間にブロックが現れる様子は、マインクラフトを親しむユーザーであれば感動的な体験となることでしょう。

②らくがきAR

らくがきAR

画像引用元:らくがきAR

ここ最近、SNSを中心に大きな話題を呼んでいるのが、「らくがきAR」です。ゲームはいたってシンプルで、自分で描いたイラストをアプリがカメラを通じて読み込み、ARキャラクターとして立体的に動いてくれるというものです。

自分の描いたキャラが自由に動き出す感動もさることながら、キャラクターが意図しない形で切り取られ、自在に動き出す様子がSNSでバズを呼びました。ARがさまざまな楽しみ方を与えてくれるということも、このアプリの人気が暗に意味しているところと言えます。

③Hot Lava

画像引用元:Hot Lava

「Hot Lava」では、現実世界が溶岩の海となり、プレイヤーは数少ない足場を伝ってゴール地点を目指します。iPadのカメラの性能とmARKitのLiDARスキャナを活用したオブジェクト認識能力により、非常にリアルな溶岩地帯を現実世界に生成します。ARゲームは若干のオブジェクトのズレなどもきになるところですが、このゲームに至っては精巧に出力され、本当に溶岩地帯に足を踏み入れたような体験ができます。

④Apollo’s Moon Shot AR

Apollo’s Moon Shot AR

画像引用元:Apollo’s Moon Shot AR

NASAのアポロ計画をARで体験できるのがこちらのアプリ「Apollo’s Moon Shot AR」です。一度ARカメラを起動すると、まるでその場に宇宙空間やスペースシャトルが現れるような体験を楽しむことができます。地球から月へ、月から地球へという宇宙旅行をシミュレーションを楽しむことができる、次世代の教育アプリと言えるでしょう。

⑤JigSpace

JigSpace

画像引用元:Jig Space

現実空間に様々なオブジェクトを出現させ、3DCGでそれについて深く学ぶことができるのが「JigSpace」です。JigSpaceを使って出現させられるのは、巨大なサンゴ礁やジェットエンジンなど、現実世界では滅多に近くで目にすることはできないようなものの数々です。ARカメラを空き地にかざすだけで、気軽に出現させることができ、まじまじと360度から好きな角度で観察し、深く理解を進めることが可能です。

あるいは、地球儀としての役割や、地球を半分に割ってマントルなどを表示させるなど、現実ではあり得ないオブジェクトも出現させられます。子供の好奇心を刺激し、より生命科学やサイエンスに対する興味は高まっていくでしょう。

⑥iScape

iScape

画像引用元:iScape

iScapeは、ガーデニングの際に活躍するARアプリです。花壇や植木鉢にARカメラを向けることで、自動的に花や植物を植えてくれるという優れものです。用意されている植物は数百種類にも及び、実際にガーデニングを行う前に、あらかじめ植えてみることができるようになっています。

どのような花を植えれば理想の園芸を行えるか、という楽しみ方ができるため、せっかくの花々をしっかりと生かすことができます。花だけでなく、木々のような大きいサイズの植物も植えることができるため、活用の幅は非常に広いと言えます。

⑦Plantale

Plantable

画像引用元:Plantale

植物についてより深く学ぶのであれば、Plantaleがおすすめです。植物の一生をARを通じて学ぶことができるため、実際に花を育てずとも生命への理解を深められます。

ARカメラを使うことで、原寸大の種子や花びらの様子を見ることはもちろん、3DCGで茎の中の様子をズームアップし、どのような機能を果たしているのかをリアルに確認できます。自分でARの花を育てることもできるため、植物を慈しむことによるマインドフルネスを得ることにもつながるでしょう。

⑧Complete Anatomy

Complete Anatomy 2021

画像引用元:Complete Anatomy

ARKitとモーションキャプチャ機能の力で実現したのが「Complete Anatomy」と呼ばれるアプリです。ARカメラを人に向けることで、その人の骨や筋肉などを可視化し、体の機能や仕組みについて、深い理解を得ることができます。

まるで人体模型のような使い勝手を気軽にアプリで実現できるため、生物に対する知見を気軽にいつでもどこでも深めることが可能になります。理学療法士を目指す学生やプロの現場における運用にも耐えうる、質の高いアプリと言えるでしょう。

⑨IKEA Place

IKEA Place

画像引用元:IKEA Place

北欧インテリアのIKEAがARKitを使って開発したのが、「IKEA Place」です。IKEAは店舗こそ郊外にしかなく、足を運ぶのが億劫なところですが、このアプリを使うことで実際に自分の部屋にARでインテリアを配置して試すことができます。

原寸大でインテリアは出現するため、一切の手間を感じることなく、次々とIKEAの洗練されたインテリアを体験することができます。この技術が広まれば不必要な返品などのトラブルも減少し、より購買活動にもつながるでしょう。

参考:【考察】IKEAのARアプリ「IKEA Place」とは?ARがもたらす大きな変化と小売の未来

⑩ポケモンGO

やはりARアプリといえばポケモンGOでしょう。

目の前にゲームの中のキャラクターが出現して、一緒に撮影できるAR体験には多くの人が心を動かされました。

このように、目の前の現実世界にバーチャルな視覚情報が本当に存在するかのように表示させるARは、スマホアプリによって身近になりました。

アプリストアでインストールするだけで、手軽に現実とバーチャルが融合した体験ができるようになっています。(AppStore:ポケモンGO

特にポケモンGOについて詳しく知りたい方は、以下の記事もおすすめです。

参考:【解説】ポケモンGOのARの仕組みとは?ARゲームの草分けになった背景と、Niantic社の最新動向まで

まとめ

iPhoneにおけるARの運用についての状況や、今後のAppleのAR分野における展望について紹介しました。

ARの活躍の幅は、これからもiPhoneをベースにますます広がっていくことが予想されます。早いうちからARの活用方法や楽しみ方を理解し、ビジネスへどのように応用させていくかを検討しておくことがベストでしょう。

また、近年ではアプリさえ不要の「WebAR」という技術も発展してきており、ARはアプリ以外の技術にも幅広くキャッチアップしていく必要が高まっています。

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