IKEAのARアプリ「IKEA Place」とは?ARがもたらす変化

世界最大の家具量販店IKEA(イケア)が、アップルと共同してARアプリ「IKEA Place」を開発しました。アプリを使うことで、ユーザーは自宅やオフィスにいながら、IKEAの商品設置を行えます。

そしてさらにIKEAは2022年3月、小さなスペースを活用したARポップアップをニューヨークのブルックリン店にて試験的に開始しました。これは自宅では体験できないレベルの高度なAR技術を活用した新たな取り組みです。

この記事では、ARアプリ「IKEA Place」の特徴や仕組みを解説したのち、次々と生まれてくるIKEAの新プロジェクトから見るARがビジネスと生活に与える影響について考察していきます。

IKEAがアップルと共同開発したARアプリ「IKEA Place」

世界最大の家具量販店IKEA(イケア)が、Apple(アップル)と共同でAR技術を活用したアプリ「IKEA Place」を開発しました。「IKEA Place」を使うと、アプリ画面上にIKEAの商品がデジタル家具として表示されるのです。まずは、「IKEA Place」の機能や仕組み、開発理由について解説しましょう。

機能

「IKEA Place」の機能を一言で伝えるなら、「リアルタイムで部屋の中にIKEAの商品設置ができる」です。アプリを起動し、写真を撮るように部屋を映すと、実寸大の家具がスマホ画面に表示されます。

アプリのデータベースには、テーブルやソファなど2,000点以上のIKEA製品が収納されています。気になる商品をタップし、スマホで設置したい場所をかざすだけで、家具が空きスペースにフィットするのか、どのように見えるのかなどをチェックできます。つまり、家から一歩も出ることなく自宅に合った家具の発見と購入ができるこの体験は、まさに「AR=拡張現実」と言えるでしょう。

AR技術のほか、注目して欲しいのが商品カテゴリーです。普通だと「椅子」や「机」など商品名だけでカテゴリー分けされます。しかし、それだと顧客は欲しいものしか検索しません。

「IKEA Place」では従来のカテゴリーに加え、「コレクション」や「ライフスタイル」などでも分類しています。そうすることで、顧客が潜在的に求める商品を提示したり、求める商品がわからない人には希望に合った家具を紹介できたりするのです。そのほかの主な機能はつぎのとおりです。

  • 写真やビデオでアプリ画面の撮影とシェア
  • 気に入った商品のオンライン購入

アプリはApp StoreもしくはGoogle Playで無料ダウンロードできます。

なお、 ARにはアプリが不要なWebARという機能も存在します

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仕組み

IKEAがAR開発に使用したのは、アップルが提供する開発サービス「ARKit」です。アプリの仕組みは、スマホのカメラとセンサーを利用して、アプリが部屋の広さや物体などの認識と分析を行い、分析結果に合わせて3Dのデジタル家具を画面上に設置します。

IKEAのプレスリリースによると、3D家具サイズの正確さは98%にもなるそう。また、生地のテクスチャーや光と影の具合まで確認できるのです。再現性は非常に高いので、実物が思ってたサイズや質感と違ったなどのミスマッチを防げます。3D家具のビジュアライゼーションのまさに最先端ですね。

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使い方

では、ARアプリ「IKEA Place」の使い方を公式YouTubeのスクリーンショットを利用しながら紹介していきます。まず、アプリを起動して家具を置きたい場所をスキャンします。

家具を置きたい場所をスキャン

Ikea YouTube

次に、2,000点以上のデータベースの中から、気になる商品を選択します。商品写真や値段も表示されています。もちろん商品検索も可能です。

気になる商品を選択

Ikea YouTube

すると、スマホ画面に選択したデジタル家具が登場するので、設置したい場所へ動かしましょう。デジタル家具は3Dであるため、指で360度回転させることもできます。さまざまな置き方をして、部屋との調和具合を確認できます。デジタル家具に近づくと、生地の質感や影などもチェックできます。

調和具合を確認

「IKEA Place」の使い方自体は簡単です。AR技術に触れてみたい方は、ぜひ試してみてください。

開発された理由

IKEAの基本販売スタイルは、店舗で顧客が商品購入しそのまま自宅まで持ち帰るというものでした。しかし、その販売スタイルでは、車を持たない若者や都会に住む人々には、家具などの大型商品を持ち帰れないというデメリットがあったのです。

そのため、オンライン販売を望む声が多数ありました、しかし、IKEAが日本でオンライン販売を開始したのは2017年とつい最近のことでした。オンライン販売が遅れた理由はさまざまでしょうが、大きな原因はIKEAが家具を販売しているからでしょう。

私たちが家具を購入する際、部屋との調和やサイズ、質感などさまざまな要素をチェックします。しかし、カタログやネット写真では、質感やサイズ感などは上手く確認できません。実際に購入してみたものの、隙間に家具が入らなかったり、思っていた質感と違ったりした経験を持つ人は多いと思います。つまり、顧客は失敗しないために店舗まで訪れて実際に家具を見る必要があったのです。

その弱点を解決したのがAR技術です。「IKEA Place」を使うことで、顧客は自宅やオフィスにいながら、デジタル家具を自由に配置できるようになりました。デジタル家具は実物に限りなく近いため、顧客は店舗を訪れて商品チェックする必要はありません。

IKEAの2019年売上高は初の400億ユーロを超え、オンライン販売は43%増でした。オンライン販売が伸びた立役者には、ARアプリ「IKEA Place」の存在が大きいでしょう。ARアプリは、顧客の購入における意思決定を大きく手助けしているのです。

AppleのARグラスとの融合も?

AR技術を活用したアプリ「IKEA Place」はIKEA(イケア)がApple(アップル)と共同で開発したという部分は、やはり注目に値すべきポイントです。IKEAは今後のAppleのAR開発における重要なビジネスパートナーという位置付けです。

そして、Appleと言えばiPhoneの次と目されているAppleグラスの存在です。早ければ2022年には発売されるとの噂もあります。

確かに以下のような体験が小さなスマートフォンのスクリーンではなくARグラス越しに全画面で体験できるようになれば、お店で家具を選ぶよりも間違いなく自宅にARを活用して試し置きをしながら家具を選ぶような時代になるでしょう。

出典:IKEA

Appleはまずスマホアプリとして「IKEA Place」を提供しつつも、あくまでその先のARグラス時代を見据えた取り組みの第一歩として「IKEA Place」を捉えている。そんな風に考えると、より未来の解像度がクリアになります。

IKEA原宿は限られた面積の問題をARで解決した

IKEA原宿は限られた面積の問題をARで解決した

IKEA原宿

2020年6月8日、IKEA(イケア)は初の都心型店舗「IKEA原宿」をオープンしました。都市部の店舗ということで、店舗面積が限られています。そのため、商品数やレイアウトなど随所に工夫を施しています。

中でも、ひときわ注目を集めているのがAR技術でしょう。各ショールーム商品にはQRコードがついています。スマホアプリ「IKEA原宿」でQRコードを読み込むと、「IKEA Place」と同じように、ARで商品情報や色違い商品の確認ができるのです。これにより、大型家具を色違いで設置する必要がなくなったため、大幅なスペース節約につながりました。

IKEA原宿では大型家具の持ち帰りはできません。購入の場合は、アプリを通してオンライン決済をし、後日自宅での受け取りとなります。AR技術の活用により、学校や会社帰りの人や車を持たない人々が店舗に立ち寄り、気軽に大型家具を購入できるようになったのです。今後、面積が限られた小売店では、IKEA原宿のようにAR技術で商品レイアウトを工夫するのが一般的になるかもしれません。

参考:ニトリ・デコホームの取り組み

株式会社ニトリが提供するインテリア雑貨専門店「デコホーム」では、エプロンが試着できるARを制作し、SNSでのプロモーションに加えて店頭でのデジタル試着としてもARを活用しています。

ARはデコホームの公式Instagramアカウントを通じて提供されており、まず4つのデザインから好きなものを選ぶ画面から始まり、そのまま選んだデザインを試着まで体験できるARになっています。デザイン選びから試着まで1つのARでシームレスに完結する仕組みになっています。

また、ARはInstagram上でのプロモーションだけでなくデコホーム店頭でも展開されており、POPに印刷されたQRコードからダイレクトにAR体験が立ち上がり、非接触のままでデザイン確認や商品の試着体験ができる仕掛けにもなっています。

店頭でARによる試着体験を提供することは試着スペースの圧縮など限られた面積を有効化するだけでなく、非接触による安心安全までも同時に提供できるということでしょう。

リアル店舗での顧客体験もARによってデジタル化をし、より快適な店舗体験の提供を目指す事例としてご紹介させていただきました。

参考:お家で楽しくショッピング!OnePlanet、株式会社ニトリが展開する「デコホーム」の公式Instagramアカウントに自宅でもエプロンの試着ができるARを提供

【考察】IKEAの新プロジェクトから見るARが変える生活

IKEA(イケア)は家具量販店ながらも、最新テクノロジーを積極的に導入している企業です。実際に、IKEAは「SPACE10」という研究所を所有しており、そこではARやAI(人工知能)といったテクノロジーと生活の組み合わせを実験しています。

2020年6月23日、SPACE10が「Everyday Experiments」というウェブプラットフォームを公開しました。プラットフォーム上では、IKEAがテクノロジースタジオとコラボ製作した18のプロジェクトを見られます。おもしろいプロジェクトを紹介していきましょう。

Point and Repair

Point and Repair

Space 10: Everyday Experiments

「Point and Repair」はRandom Studioとのコラボプロジェクトです。スマホで傷ついた家具をスキャンすると、コンピューターが家具や傷を認識して、傷に合った複数の修理方法をARで表示する技術です。おそらく、これは一番実用化される可能性が高い技術だと考えられます。

また、IKEAもこの技術で大きなメリットを得られるはずです。顧客はIKEAで購入した家具を、自分で組み立てる必要があるからです。正直なところ、紙の組み立てマニュアルはわかりやすくはありません。しかし、この技術が実用化されれば、家具修理はもちろん組み立て方までAR表示できるようになるでしょう。組み立てが楽になるだけでも、多くの顧客を取り込めるはずです。

Room Editor

Room Editor

Space 10: Everyday Experiments

「Room Editor」は、フォトショップなどの消去機能を応用したものです。アプリ上で家具などの物体を塗りつぶすと、その家具が画面から消えます。その後、3Dデジタル家具を設置することで、既存の家具を動かすことなく家のデザインを確認できます。「IKEA Place」に実装されると、より使い勝手が良くなるはずです。

Techno Carpenter

家具に関するTipsの表示1

Space 10: Everyday Experiments

18のプロジェクトの中で、最も注目を集めているのが「Techno Carpenter」です。これはARとVR技術を組み合わせたテクノロジーで、手を動かしながら、自分で椅子のデザインを行うのです。搭載アルゴリズムには6,000点以上の椅子の画像がインプットされているため、ユーザーのニーズに合った椅子が作れます。

AR技術がもたらす影響

いずれのプロジェクトもプロトタイプであり、まだまだ実用段階にはありません。しかし、将来的にARがビジネスや生活に及ぼす影響を想像する良い手がかりとなります。

現代の家の役割は、寝食の場だけではなく仕事や遊び場にもなっています。AR技術がより発展すれば、家がこれまで以上に快適で楽しいものとなることは間違いありません。

小売の未来|IKEAの最新のARの取り組み

2022年3月、IKEAはニューヨークのブルックリン店にて、新しい取り組みを公開しました。

「Space Unfolded」と呼ばれるその取り組みは、ARなど最新技術を活用したIKEAの新しい没入型のポップアップ展示です。

コンセプトは「1つのスペースに、無限の可能性」

Space Unfoldedの入り口には、“A single space, infinite possibilities.” (1つのスペースに、無限の可能性を。)という書き出しから始まる、このポップアップのコンセプトとも取れるメッセージが表示されています。

この書き出しからも分かる通り、様々なパターンのバーチャル家具のレイアウトを、AR技術を活用して小さな単一のスペースに重ねて表示させることで、小さな単一のスペースでも無限にショールームを構築・提供することができるという体験になっています。
これはユーザーの自宅でも体験できる床などの平面に3D家具を表示させるシンプルなARとは異なり、立体的に空間をスキャンすることで実現されているARです。つまりユーザーの自宅で体験できる従来のARとは異なる、小さなショールームの可能性を拡張させる「店舗向け」のARプロジェクトという位置付けです。

気になる部屋を選択して、ショールームを体験していく

ポップアップスペースに入ると、まず初めにユーザーはタッチスクリーン自分の気になるライフスタイルを選びます。
そして選択したライフスタイルに合った空間が立ち上がります。
さらにユーザーはその中で自分の好みに合わせてレイアウトを調整できたり、レイアウトのヒントとなるような助言を表示してくれたりします。
家具に関するTipsの表示1
選択された家具は黄色く縁取られることで、ユーザーはどの家具を選択したのか直感的に伝わるようなUIデザインになっており、これまでのスマートフォンにはなかった立体的な空間を前提とした新た強いユーザーインターフェイスを前提に体験をデザインしています。
家具に関するTipsの表示2

多くの人によく知られている自宅の平面に表示させるARとは異なり、Space Unfoldedは顧客が自宅で体験できるものを超えた新しい体験になっていることが分かると思います。

 

このようにIKEAは顧客に新しいデジタル体験を提供し、家庭生活の改善や簡素化を実現する方法を提示し続けています。

まとめ

自宅での時間が増えた今、自宅で家具のディスプレイと購入ができるARアプリ「IKEA Place」は、より多くの人々に使われることでしょう。これから、AR技術を駆使した販売がスタンダードになる可能性は十分にあります。

IKEA(イケア)は次々と最新テクノロジーを採用しており、動向を見るだけでもARがビジネスや生活に与える影響を学べます。今後は、こういったARショッピング体験は確実に一般化します。どのようにAR技術を活用するかというアイデアが重要になるので、ぜひIKEAのプロジェクトは参考にしていきたいところです。

本メディア「ARマーケティングラボ」を運営するOnePlanetでは、最先端のARおよび3D技術チームが上記に紹介したようなAR技術を活用した体験を開発・提供をしています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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