
AR(拡張現実)は近年注目されている技術で、人気のアプリなどに取り入れられ一気に国内でも認知度が高まりました。ARはエンターテイメントを提供するコンテンツとしてだけでなく、私たちの社会に変化をもたらすさまざまな使い方が想定され、日々開発が続けられています。今回は、ARのこれまでの広がりや未来について考えていきたいと思います。
目次
AR(拡張現実)とは
ARは「Augmented Reality」、日本語では「拡張現実」と訳されます。ARはVRと明確な違いがあり、独自の技術によってさまざまな体験を実現します。ここでは、VRとの違いやARにできること、使われている技術について解説していきます。
ARとVRとの違い
VR(Virtual Reality:仮想現実)とは、その名の通りバーチャルな世界のことを指します。VRは専用のVRゴーグルを装着することにより没入感のあるバーチャル体験ができます。360度バーチャルな世界を体験するにはVR技術は役立ちますが、一方でデバイスによる制約などのデメリットがあります。
一方、ARはデバイスを通すことで、現実世界にバーチャルなARコンテンツが映し出され現実を「拡張」します。ARはVRに比べて必要なデバイスが最小限で済むため、アプリなどとの親和性も高いことが特徴です。2020年現在も多くのARを使ったアプリがリリースされています。
ARでできること
ARでは、その特性を利用してゲームなどのエンターテイメントや商品の疑似体験、社内のオペレーション補助など幅広い分野で既に導入されています。「ポケモンGO」はARゲームの世界的なブームとの火付け役として記憶に新しいですが、他にも日々数々のARゲームが市場に参入しています。
画像引用元:ポケモンGO
商品の疑似体験ができるARとしては、IKEAの提供する「IKEA Place」、バーコードを読み込むだけで最新のコスメを自分の顔で再現することができる「YouCam メイク」などが、これまでインターネット上では得られなかった体験を実現させています。
画像引用元:IKEA Place
また、ARは必ずしもカスタマー向けのサービスだけに利用されているわけではありません。製造業に顕著に見られるARの活用事例としては、社内のオペレーションとしてAR技術を活用するというものがあります。現場で働く従業員が減少する中、ARはベテラン技術者のノウハウを若手に効率的に伝達する際に役立っています。ARと産業との関りは後半でも詳しく解説します。
使われている技術
ARでは、スマートフォンやタブレット内に搭載されている「カメラ」や「空間認識機能」により取得される情報、「GPS」により取得される位置情報などと現実空間を結び付け、ARコンテンツとしてデバイス内にアウトプットされます。これらのARコンテンツと現実空間のミックスは、主に3種類の方法によって実現されています。それぞれについて解説していきましょう。
- ロケーションベースAR
- ビジョンベースAR(マーカー型)
- ビジョンベースAR(マーカーレス型)
ロケーションベースAR
ロケーションベースのARでは、GPSなどで取得した位置情報にバーチャルな画像などを紐付けてデバイスにARコンテンツを出現させます。使用する情報は、
- 位置情報
- 磁器センサーによる方位情報
- 加速度センサーによるデバイスの傾き情報
などです。これらの情報を読み取ることで、画面上の適切な位置にARコンテンツが出現し、リアルな体験をすることができます。
ロケーションベースARでは、特定の位置にデバイスが近づいたときにコンテンツが生成されるため、視覚的にもわかりやすく誰にでも楽しむことができます。ARコンテンツとしては、「ポケモンGO」などがこのロケーションベースARに分類されます。
ビジョンベースAR(マーカー型)
ビジョンベースARでは、定められた規格の「マーカー」をカメラで読み取ることで、その上にARコンテンツを生成する技術のことです。「マーカー」はQRコードなどのデバイスが認識しやすい図形になっており、この枠内にあるパターンの違いをデバイスが識別することで、表示させるARコンテンツの種類を変化させることができます。
マーカー型ビジョンベースARのメリットは、デバイスの認識が早く、安定的にARを表示させることができる点です。反対に、デメリットは特定の場所でしかコンテンツが生成できない点です。マーカー型のビジョンベースARの例としては、ニンテンドー3DSの「ARカード」が挙げられます。
ビジョンベースAR(マーカーレス型)
マーカーレス型ARは、マーカー型のような特定のマーカーを必要としないAR技術で、現実空間そのものに情報を付加することができます。例えば、現実世界の机や窓の角などコーナー点や特徴点を読み取り、その地形に合った情報を付加します。マーカーレス型のARは、現実空間の地形やモノの動きをデバイスがリアルタイムでトラッキングするため、現実に合わせて変化するARコンテンツをリアルに体感することができます。
ただし、マーカーレス型ARは、画像の分析という工程を必要とします。そのため、算量が多くなるなど、ある程度高スペックなデバイスを用意する必要があり、導入コストは若干高くなるというデメリットもあります。
ARの広がり
国内では「ポケモンGO」によるARの認知度の向上やアプリの増加などにより、ここ数年で急激な広がりを見せています。ここでは、ARのブームと市場の拡大について確認するとともに、ARが現在抱えている技術的・社会的課題についても解説していきます。
ARゲームのがブームになった
2016年はAR元年とも言われ、ARが人々に急激に認知された年となりました。その火付け役が、世界的に大ヒットとなったARゲームアプリ、「ポケモンGo」です。
このARアプリは、現実空間のある地点に近づくとポケモンが出現するシステムになっており、ポケモンの種類は500種類以上にのぼります。ゲーム内では自分がポケモントレーナーとなり、各地のポケモンをゲットしたり、ポケモンを使ってバトルすることができます。
現実空間がそのままゲームマップになるという発想は斬新で、多くの人々が公園などでポケモンをゲットするために集まるなど、社会現象になりました。このブームは各種メディアで取り上げられるほか、多くの書籍などでも題材となりました。
例えば、『ポケモンGOからの問い: 拡張されるリアリティ』(新曜社)では、ポケモンGOに関する18本の論文によって編成され、観光学や社会学など幅広い視点でゲームの革新性について論じられています。このように、ポケモンGOの世界的流行は、ARの可能性を人々に広く認知させる結果になったのです。
ARアプリの広がり
ポケモンGOの大々的な成功とともに、ARアプリの認知度も高まっていきます。「SNOW」は若年層を中心に絶大な人気を誇る画像加工アプリです。アプリを起動してカメラに顔を映すだけで、アプリが自動で顔を認識し、かわいい動物などのエフェクトを付加してくれます。
「Minecraft Earth」のように既存のゲーム性を存分に利用したARゲームアプリも登場し、ゲーム内で体験した建築を現実空間でも体感できるようになっています。
2019年に登場した「ドラゴンクエストウォーク」は、既存のドラゴンクエストの世界観を踏襲しながら、現実空間でモンスターと戦闘できるゲームです。
画像引用元:ドラゴンクエストウォーク
また、ゲームだけでなく、より実用性に特化したARアプリも登場します。
例えば、「測定アプリ My Measures + AR Measure」はその名の通りAR技術を用いてもののサイズを測定できる便利なアプリです。Google MapなどGPSを用いた地図アプリとの相性も良く、ナビゲーションや現実空間の建築物への情報付加など、現実に付加価値を与えるアプリも多数登場しています。
このように、ARはすでに人々に受け入れられ、アプリなどの便利なかたちで使用されています。
AR市場の発展
このようなAR市場の盛り上がりは、データからもはっきりと読み取ることができます。IT専門調査会社のIDCによると、世界のAR・VRのハードウェア・ソフトウェアや関連サービスの合計支出金額は、2023年には160.5億ドル(約17兆3,000億円)になると予測されています。
また、IDCによれば、2019年の市場規模は105億ドルほどであり、同市場の2019年~2023年の年平均成長率は77.0%になると予測されています。昨今の新型コロナウイルスの影響でこれらの数値はどうなるかは不明ですが、少なくとも高水準の成長率を維持しながら市場が拡大し続けていくと予想することができます。
また、興味深い点は、当初はVRの方がARよりも成長率が高く推移しているものの、ARの2019年~2023年の年平均成長率は164.9%と予測され、2023年にはAR支出がVR支出より格段に大きくなるとされていることでしょう。
日本でも、総務省が公表している『令和元年版 情報通信白書』で、VRとARの市場は今後も大幅に拡大していくと予測されています。ARは生産性の向上や現場のオペレーションなどのソリューションとして期待されていることがわかります。
ARが抱える技術的・社会的課題
このように、ARは市場において現在非常に期待を寄せられている分野であることは間違いありません。一方で、発展段階にあるARには技術的・社会的な課題が存在します。ここでは、ARデバイスの携帯性や耐久性に関する技術的な課題、社会倫理との整合性などの課題について触れます。
ARはよりウェアラブルになるか
ARデバイスは、スマホやタブレットだけでなく、よりウェアラブルなものも開発されています。
例えば、GoogleはGoogleは法人向けのスマートグラス「Glass Enterprise Edition 2」を発表しました。これは工場や倉庫、医療現場などの分野で活用が期待されており、グラスをかけるだけで現実空間にARコンテンツを付加することができます。
とは言え、このグラスは未だにバッテリーの駆動時間に不安があったり、デバイスが大きすぎるため装着感が損なわれるなど、課題も多くあります。技術が発展途上のため、価格が高くその割には使用する必要性があまり感じられないという点が、スマートグラスの目下の課題と言えるでしょう。
他にも大手各社がスマートグラスの開発に取り組んでいますが、コンシューマー向けとして成功した事例はまだありません。スマートウォッチが心拍数などのユーザーの生理学的情報を取得して健康に貢献したように、スマートグラスが人々に受け入れられるには必要性を感じさせるものになる必要があります。
ARデバイスの耐久性
ARが産業用途として使用されるには、防水や防汚対策が必須です。特に、工場や倉庫などの補助としてAR技術を用いる場合には、周囲の環境に耐えうる性能にする必要があります。
また、長時間作業できるよう、バッテリーの駆動時間も改善していかなければなりません。これらのBtoB向けのARデバイスは、今後製造業や医療などそれぞれの業界に応じた進化を遂げていくと考えられます。
ARコンテンツと社会のルールとの整合性
ARコンテンツは現実世界をマップとして用いることができるため、それが社会的な混乱や軋轢を生んでしまうこともあります。ポケモンGOの流行はその典型です。
ポケモンGOの流行時、人々は公園など多くの場所に出かけましたが、それが私有地への侵入や歩きスマホなど、さまざまな問題を発生させました。大手スーパーマーケットでは、ポケモンGO利用者に注意喚起を行う音声を店内で流すなど、コンテンツが社会に良い影響ばかりを与えたわけではないことは事実です。
ポケモンGo公式サイトではコンテンツを使用する際のガイドラインを作成しユーザーに良識ある行動を求めていますが、このようなエンタメ系のARコンテンツでは、今後も社会のルールとの整合性が求められるでしょう。
ARの未来
ここからは、課題を抱えながらも大きく成長してきたARの未来について想像してみましょう。ARの未来は、ARクラウド、デジタルツイン、地図、ミラーワールドなどの観点から考えることができます。
ARクラウドという新しいインフラ
ARクラウドは、現実空間の3Dコピーをつくり、ユーザーやデバイス間でリアルタイムに同期できるマップ情報のことです。通常の孤立したAR空間は、ユーザー間でソーシャルな関係を築くことは難しく、AR体験を共有することはできません。
ARクラウドでは、このソーシャルな関係性をARコンテンツ内でも築くことができるため、Facebookのソーシャルグラフ、Googleの検索インデックスに次ぐ、「第三のプラットフォーム」になると期待されています。
ARクラウド市場にはすでに多くの企業が参戦しており、今後もプラットフォームを構築するべく激しい競争が続くことは間違いないでしょう。ARクラウドを開発する企業としては、
- 6D.ai
- Sturfee
- Ubiquity6
- Infiniverse
などがその代表格です。
デジタルツインによる産業の革新
デジタルツインとは、現実の物理的なオブジェクトをデジタル空間に再現させる技術を指します。その名のとおり、現実空間の「双子」をつくり出すのです。
例えば、Fyusionが提供するアプリ「Fyuse」では、実際に動きながらオブジェクトをカメラ撮影すれば、3D画像が撮影できます。この3D画像は、Webやモバイル、ARコンテンツなどのマルチプラットフォームで利用することが可能です。Fyusionでは、すでに自動車産業に車両の損傷解析ができるサービスを提供するなど、さまざまな産業へのソリューションとなることが期待されています。
地図はARの主戦場に
ARは地図アプリとの相性が良く、GPSにより取得された位置情報にARならではの視覚的な付加価値を提供することができます。しかし、ARは単に地図上に情報を付加するだけではなく、ARのプラットフォームを整備することにも役立ちます。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドから多額の投資を受けたベンチャー企業Mapboxは、ARやVRを対象としたUnitiy用SDK(ソフトウェアを開発するために必要なツールのセットのこと)を開発しています。また、日本の大手老舗企業のゼンリンは、3Dマップデータのオンライン販売事業を開始し、建設・自動車業界などの産業からARゲームのようなエンタメ系コンテンツまで幅広い分野を視野に入れています。今後も、ARと地図は深い関係を築くことになるでしょう。
AR技術が後押しするミラーワールド
2019年6月、大手テック系雑誌のWIREDが『MIRROR WORLD – #デジタルツインへようこそ』というミラーワールドに関する特集をし、話題になりました。ミラーワールドとは現実世界のデジタルツインであり、多くの物理的なオブジェクトがデジタル化された世界のことです。特集では、自分がアバターを持ち、架空のキャラクターが道を行き交う姿が想像されています。
このように同時に複数の人々が同じバーチャルな世界を体感するミラーワールドは、遠い未来に実現する世界ではありません。すでに一般社団法人渋谷未来デザインなどにより運営される「バーチャル渋谷」プロジェクトでは、実際の渋谷の街を再現したマップが公開されています。
バーチャル渋谷では、渋谷に足を運ぶことなくARアートをオンライン上の渋谷の同じ場所で、同時に複数人が体験できるようになっています。このように、国内でもミラーワールドに向けた取り組みは進められており、より高度な世界が構築される日もそう遠くないでしょう。
AR技術は新しい世界のカギになる
ARはエンタメ、産業へのソリューションなど多方面において期待される技術です。今後デバイスの耐久性が上がり、よりウェアラブルなデバイスが開発され、普及すれば、ARはさらに社会に受け入れられるでしょう。
また、ミラーワールドのような大規模な世界を構築する上でもARは欠かせない技術であり、まさに新しい世界のカギになると言えます。
先述したAR市場の盛り上がりを見る限り、技術革新はこれから本格的に起ころうとしています。AR市場への投資の加熱が、コンシューマ向けデバイスの開発や各産業に特化したAR技術の開発に良い影響を与えることは間違いありません。
まとめ
これまで見てきたように、ARはコンシューマ向けとしてはARアプリとして幅広い人々の受け入れられてきました。一方、より大きなデジタルプラットフォームの構築にも、AR技術は必要不可欠です。新たな技術に期待を寄せつつ、様々なARアプリのサービスを利用するなど、日々技術の進歩に触れておくと良いかもしれません。
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