ARカメラ

4Kや8Kといった映像技術の進歩は眼を見張るものがありますが、視覚に訴える次世代の技術は、平面の映像の進化にとどまりません。

特に注目を集めている視覚技術の一つが、AR(Augmented Reality)、日本語では「拡張現実」と呼ばれるものです。

ARの技術はなぜこんなにも多くの人の注目を集め、期待されているのでしょうか?

今回は、そんなARの特徴やその魅力、そして他の視覚技術との違いや実際の運用事例まで詳細に紹介していきます。

AR(拡張現実)とカメラ

スマホカメラ

ARは「拡張現実」という名前の通り、現実の映像を拡張し仮想的なオブジェクトを追加することで、まるで現実世界へ本当に物体が現れたかのように感じさせる技術です。

このような映像表現を可能にしたのが、進化したカメラアプリケーションです。

ARの仕組み

実は、ARを表示させるために専用のカメラやハードウェアを購入する必要はありません。

もちろん専用のデバイスを用いたAR技術もありますが、私たちがごく一般的に体験しているARは身近なデバイスによって提供されています。

例えば、昨今多くのARアプリをスマホで体験することができますが、スマホに搭載されているのは一般的なカメラです。

アプリを起動しカメラを使用してみると、そこには現実にいるはずもない動物や、あるはずもない自動車などを映し出すことができます。

ARとスマホカメラの関係性

ARの仕組みは、かなりシンプルな設計となっています。

端的に言えば、カメラを通じて現実空間の位置情報や物体の情報を読み込み、アプリによって表示させるオブジェクトの形や大きさを計算し、カメラ上の現実空間に当てはめるというものです。

カメラの映像情報から、アプリは「どのあたりに床があるのか」「敷地の面積はどれくらいか」などといった定義づけを行い、まるで本当にその場にいるかのような、リアルな拡張現実を可能にします。

現実世界を計測する機能がなければ、アプリは正しくオブジェクトを立体的に設置することができません。

ARの根幹はむしろ、カメラを通じた現実世界の寸法を正確に測ることができる技術にあるとも言えそうです。

 

VR(仮想現実)のように、最新の視覚技術の多くは特殊なハードウェアを用意しなければなりません。

しかし、ARはスマホを使って導入することができるほど開発が容易な技術となっているため、高いコストパフォーマンスを期待することができます。

開発用のARキットを入手するだけで、ARアプリを作ることができるだけでなく、スマホですぐにAR体験ができてしまうのはこの技術の魅力の一つと言えるでしょう。

ARの種類

ARのイメージ

ここで、基本的なARの種類についても確認しておきましょう。

現在主に採用されているのは次の3種類です。

それぞれについて詳しく解説してきます。

ARの種類
  • QRコード型
  • GPS型
  • ARグラス型

種類①QRコード型

QRコード型は、文字通りQRコードからARのデータを読み取り、コードの上にAR情報を表示するという手法です。

QRコードを使ってWebサイトにアクセスし、そのサイトで公開されている動画や写真が流れたり、キャラクターを登場させてプロモーションを行ったりなどが可能です。

QRコード型の一種としてAR専用のマーカーを設置し、そこに映像などを表示する技術も存在します。

あるいは、画像認識でARを表示させるなど特定の画像や模様を読み込ませることでこの技術を実現することも可能です。

ユーザーにはスマホを用意してもらうだけで表示させることが可能であるため、不特定多数にAR技術を体験して欲しい場合には有効な手法だと言えます。

種類②GPS型

GPS型は、ユーザーの位置情報を読み取りARに応用する方法です。

位置情報からユーザーの体の向きや場所などを特定し、精度の高い測定サービスを提供したり近くにある観光スポットや目的地までの正確なナビゲーションを実現します。

地図アプリやポケモンGOのようなゲームで活用されることの多い技術だと言えますが、近年ではプログラミングをせずに簡単にGPSによる位置情報の制御をつけたARコンテンツを制作できる、AR制作の簡易化サービスも登場しました。

AR体験の場所を限定することで「ここでしかできないAR体験」が価値となり、ユーザーの集客を実現することができます。

また、コロナ禍においては非接触の需要が高まっていますが、ARコンテンツはユーザーのスマートフォンだけで完結することから「ここでしかできないAR体験」かつ安心安全な非接触コンテンツとして需要が高まっています。

種類③ARグラス型

ARグラス型は、頭に装着して使用するタイプのデバイスで、スマホカメラを使ったARサービスなどをより効率良く運用するために開発が進んでいます。

QRコードやGPSなど、ARの情報を読み込むために必要な機能を内部に搭載し、スマホを使わなくともARグラスをかけているだけで、あらゆるサービスを利用することができます。

例えば、ARグラスをかけていれば建物の計測は手ぶらで行うことができ、その情報をグラス上で表示したまま両手で作業を進めることができます。

あるいは、GPSを使ったナビゲーションをグラスに表示させることで、スマホを見なくてもガイドラインに沿って目的地へと向かうことができます。

スマホ歩きが解消されるだけでなく、地図と実際の道を比較しながら進む必要がなくなり、目的地にたどり着く時間も短縮されるでしょう。

ARグラスはまだまだ日常使いには大型なモデルが目立ちますが、ゆくゆくは小型化され一般的なメガネにも投影できるなどの機能が追加されれば、大きく普及することになるでしょう。

ARグラスについてより詳しく知りたい方はこちらから。

参考:【2022最新】AR/MRグラスとは?スマートグラスとの違いと、代表的な12種類の解説

AR/MRグラスとは?スマートグラスとの違いと、代表的な12種類の解説

なぜARは注目されるのか

注目される

では、なぜAR技術が注目されているのかについて、その理由を4つに分けて解説していきます。

ARが注目される理由
  1. AR市場が巨大化しているから
  2. 新しいエンターテイメントの到来だと考えられているから
  3. プロの現場における実用的な可能性があるから
  4. ライフスタイルの大きな転換をもたらすから

理由①AR市場が巨大化しているから

AR技術に関連する市場は、昨今ますます拡大を見せるようになってきています。

2019年にリサーチ会社のIDC Japanが行った調査結果によれば、世界のAR/VRに関連する支出額の合計が、2018年の89.0億ドルから、2019年は168.5億ドルへと、急激な増加を示したことがわかっています。

参考:日経 XTech「AR/VR世界市場は年率78%で急成長し2023年に17兆円規模に、IDC Japan予測

また、2023年にはこの市場は1,606.5億ドル、日本円に換算して17.3兆円にも達するという試算も公開されており、今後ますます多くの人々が注目するようになると考えられます。

ARはすでに大きなお金が動きテクノロジー分野における巨大な市場を形成しようとしていることがわかります。

では、どのような活用方法が検討されているのでしょうか?

理由②新しいエンターテイメントの到来だと考えられているから

活用方法の一つは、新しい映像エンターテイメントです。

単に視聴するだけではなく、現実の映像とリンクした映像体験は、これまでにない没入感と3D体験を与えてくれます。

例えば、ここ数年で大流行を見せている『ポケモン GO』などはその典型で、まるで現実世界にポケモンが現れたようなプレイ体験は、多くの人を魅了しました。

近年は『ポケモン GO』の大成功により、多くのARゲームが開発されるようになってきています。

位置情報を読み込んで冒険ができる『ドラゴンクエストウォーク』や、現実世界で自由にブロックを積み重ねたりすることが可能な『Minecraft Earth』など、多くの有名IPがARでの展開を進めています。

理由③プロの現場における実用的な可能性があるから

確かに、ARはエンターテイメントにおいて新しい可能性をはらんだ技術ですが、より実用的な使い方にも注目が集まっています。

例えば、ARを使った新人研修です。

建設現場や医療業界など、身体を使って業務を遂行したり、繊細な技術が求められ正しい手順で業務を実行する必要のあったりする職業において、感覚的な理解は必須です。

研修期間は座学や本番を模した実技訓練などによってその方法については頭で理解できるものの、いざ実際の現場ですぐに戦力になれるかというと難しいものがあります。

そこで、AR技術の出番です。

AR映像を使って、現実世界に実際の現場で使われるオブジェクトを表示させ、本物の現場で業務に取り掛かるような緊張感を味わうことができるようになりました。

あるいは、研修にかかる予算を大幅に削減し、コストパフォーマンスの向上を図ることも可能になります。

研修用の施設を用意したり、社員をそこに移動させるためには時間とお金がかかっていました。

しかし、ARによっていつでもどこでも研修を行えるような環境を構築することで、迅速な訓練の遂行が可能になったのです。

さらには、現場作業における充実のサポートもARの重要な役割です。

ARカメラを通じて建物の採寸を瞬時に完了し画面に表示することができたり、手術の際には患部をARで表示し寸分の狂いもない治療を行うようにするなどが可能になります。

繊細な技術を要する現場はARによってますます働きやすく、リスクの小さな仕事へと変貌していくでしょう。

理由④ライフスタイルの大きな転換をもたらすから

日常生活においても、ARは大きな変化を届けてくれる存在となるでしょう。

例えば、インテリアの商品カタログが全てQRコード化され、そのコードをARカメラで読み込むことで立体的な家具のAR映像を体験することができるといった使用方法です。

ARとはいえ、丁寧に再現された原寸大の映像をくまなく確認することでサイズは問題ないか、自分の家に合うかどうかなどを知ることができます。

あるいは、読み物のあり方のイノベーションです。

海外の本であれば、ARゴーグルを通じて読むことで自動で母国語に翻訳された文章を楽しむことができるという使い方です。

3Dデータだけでなく、ARは2Dのデータもディスプレイに表示することができるため、その使い方は無限大に広がっています。

カメラを使ったAR関連サービス

最後に、カメラを使用するARサービスの中で、現在注目を集めているものを紹介していきます。

AR開発者向けアプリ

まずは、AR開発者向けのアプリを2つ紹介します。

AR開発者向けアプリ
  • Snapchat
  • Apple ARKit

Snapchat

Snapchat

画像引用元:Snapchat

すでに私たちの生活に馴染んでいるアプリの中にもARに対応しているものは少なくありません。

例えば、Snapchatのフィルター機能は顔を認識して加工編集を行っているため、これもまた立派なARアプリと言えます。

自由かつ多様なフィルターの数々は、Snapchatからユーザーが離れていかない理由の一つでもあるでしょう。

Snapchatについては、こちらでより詳しく解説しています。

Apple ARKit

Apple ARKit

画像引用元:Apple ARKit 3.5

デベロッパー向けにAR開発キットを提供しているのがAppleです。

Appleの開発キットを採用する利点としては、やはりApple製品と親和性の高いアプリの開発が可能な点が挙げられます。

iPhone11から採用されているフェイストラッキングシステムを活用したアプリの開発を行えるなど、最新技術の運用にも適しています。

ライフスタイルを豊かにするARカメラアプリ

続いては、ARカメラアプリを3つ紹介します。

ARカメラアプリ
  • IKEA Place(イケア プレース)
  • COCOAR
  • Google Map

IKEA Place(イケア プレース)

IKEA Place(イケア プレース)

画像引用元:App Store

大手北欧インテリア販売店のIKEAが提供しているアプリ「IKEA Place」は、ARで実際の家具を表示させ、自宅で実際のサイズを確認しながら購入ができるというものです。

家具のオンライン通販は寸法がわからず、ついつい買うのを尻込みしてしまうことも多いものです。

しかし、IKEA Placeを起動すれば、欲しい家具がどれくらいの大きさなのかを実寸で把握することができ、その上どのような内装になるかも閲覧が可能になります。

新しい家具販売のあり方を、自ら提案してくれている点も興味深いところです。

IKEAのARについては詳しい考察記事も出ているので参考になるかもしれません。

参考:【考察】IKEAのARアプリ「IKEA Place」とは?ARがもたらす大きな変化と小売の未来

Google Map

普段はあまり使用しないかもしれませんが、Google MapにもAR機能が搭載されています。

ナビゲーション機能の一つである「ライブビュー」は、カメラを起動することでARが使えるようになり、カメラの映像に合わせたナビゲーションが追加されるようになります。

いつもの2次元の画面表示では迷ってしまうときなど、これを利用すれば進むべき方向がわかるようになるため、覚えておいて損はない機能です。

COCOAR(ココアル)

COCOAR(ココアル)

画像引用元:COCOAR

ARは次世代の技術として取り上げられることが多いのですが、実際に導入するとなると、非常に手軽にできてしまうのがおもしろいところです。

COCOARでは簡単にARを独自に作製できるサービスを提供しており、すでに多くのユーザーがこちらを利用しARコンテンツの制作に取り組んでいます。

立体画像や映像の表示、スタンプラリー、クイズなど、さまざまな施策をこのサービス一つで作り上げてしまうことができます。

広告施策として導入を考えている方は、一度利用してみながら体験すると良いでしょう。

ARカメラは「アプリ」に頼らない方法も登場

専用アプリ型のARはユーザーにインストールしてもらうところにハードルがあるため、近年はより多くの人に利用してもらいやすいWebARやInstagramのARなどにも注目が集まっています。

InstagramのAR開発機能

Instagramであればすでにインストールしている人が多いので、いちいちアプリをインストールしてもらう必要なくユーザーにARを届けることができます。ただし、Instagramを使っていない人にはアクセスできない他、Meta社(旧Facebook社)の規約に沿って開発せねばならず、さまざまな制約がネックになることもあります。

InstagramのAR開発ツール「SparkAR」については以下の記事が参考になります。エンジニアでなくても気軽にAR制作ができるツールなので、一度自分でツールに触ってみることも良いでしょう。

参考:【入門】Spark ARとは?

WebAR

完全にアプリが不要となる「WebAR」にも注目が集まっています。

QRコードをスキャンするだけで誰でもAR体験をできるため、その手軽さから徐々に利用者が増えています。

Webサイトに訪問するのと同じように、URLを開くとそのままAR体験ができるカメラが立ち上がる仕組みになっています。

以下の記事に詳しく紹介されているので、興味がある方はぜひご覧ください。

参考:WebARとは?国内外の最新事例12選と共に、WebARの概要やメリット・作り方まで詳しく解説

WebARをノーコードで制作できるツールも登場

特に専用アプリのインストールが不要な「WebAR」のさらに進んだ選択肢として、最近では写真や画像をアップロードするだけで、プログラミングをしなくてもノーコードで簡単に場所限定のWebARコンテンツを制作できるツールも登場してきました。

もともとWebARを活用したキャンペーンは0から開発する事例が主流でしたが、こちらの「LocationAR(ロケーショナー)」というツールでは、ARコンテンツの制作からGPSによる位置情報の制御、ARを使ったスタンプラリーの制作まで、プログラミングの知識や外部の制作会社を必要とせずシステムの中で簡単に行うことができます。

実際に、ロサンゼルスの焼肉店ではこちらのように可愛いキャラクターが出現する「お店限定のAR」をこちらのツールを使って手軽に導入しています。

AR COW

他にも様々な業界でWebARの手軽な導入が進んでおり、プログラミングをせずに外注コストを抑えて、簡単にオリジナルのWebARコンテンツを制作するツールを検討してみるのも良いでしょう。

まとめ

ARは最先端の技術というイメージが先行していますが、実はすでに私たちの生活にも広く浸透しているのが現状です。

まだまだARグラスが開発途上であったり、ソフトが充実していないこともあって普及度合いで言えばそれほどではありません。

しかし、市場の成長度合いからもわかるように今後数年で急速に普及していく可能性は濃厚です。

どのようにARを運用していけば良いかを今からでも検討しておくことで、今後のAR施策のあり方は大きく変わっていくことでしょう。

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