
拡張現実(AR)や複合現実(MR)などの新たな現実は、すでに実用段階に入っています。
しかしながら、一般的な理解度はあまり高くはありません。
AR、MRとはいったい何なのか、どうやって始めればよいのか、何に活用できるのか。
今さら回りには聞きにくいこの疑問、ARを活用したマーケティングの専門情報メディア「ARマーケティングラボ」が詳しく解説します。
AR・MR・その他Realityのおさらい
VRやARは、すでに聞いたことや体験したことがある方もいると思います。
しかし、具体的に何なのかを説明できる方はまだ少ないのではないでしょうか?
この2つに加え、MR、SR、XRなどさらに広がる現実(Reality)技術。
まずは、それぞれの違いを解説していきましょう。
用語 | 英語 | 日本語 | 意味 |
---|---|---|---|
AR | Augmented Reality | 拡張現実 | 現実世界をベースにしてCGや映像などのデジタルコンテンツで作られた仮想世界を重ね合わせる技術 |
MR | Mixed Reality | 複合現実 | デジタルにより作られた仮想世界に現実世界を重ね合わせ2つの世界を融合し一つの空間とする技術 |
VR | Virtual Reality | 仮想現実 | 下界を遮断するヘッドマウントディスプレイを着用し、コンピュータにより作られた場面空間を作り出す技術 |
SR | Substitutional Reality | 代替現実 | 現実に存在していたシーンと、人工的に作製・編集されたシーンの2つを交互に組み合わせて体験できるよにする技術 |
XR | X Reality | エックス・リアリティー | デジタルまたはデジタルと実態のある現実の空間の組み合わせにより、新たな現実を表現する技術の総称 |
AR(Augmented Reality)とは
ARは、オーグメンテッド・リアリティーと読み、日本語では「拡張現実」と訳されます。
ARは、現実世界をベースにしながら、そこにコンピュータグラフィックスや映像、テキスト、サウンドなどのデジタルコンテンツで作られた仮想世界を重ね合わせた現実です。
後で詳しくご紹介しますが、現実世界にキャラクターなどの仮想現実のキャラクターを登場させ、実際にいるような感覚を体験できるゲームなどが人気です。
ARの起源はかなり古く、1901年に「オズの魔法使い」で知られるL.F.バウムが著書「マスターキー」の中で「かけると、人の額にその人の性格を表すイニシャルが表示されるユニークなメガネ」でARについて触れたことが始まりとされています。
その後もさまざまな本の中でARのコンセプトが紹介され続け、1968年にイヴァン・サザーランドが世界初ヘッドマウントディスプレイを開発しました。
これが、今日のARの原型となっています。
その後しばらくは、軍事研究や、飛行機会社、NASAなどによる特殊領域での技術開発がなされていましたが、2007年に、iPhoneが発売されたことで、一般利用のためのAR関連の技術開発が加速していきました。
2008年にBMWグループがMiniの広告キャンペーンでビジネスとして初めてARを導入したことが話題となり、2015年にはGoogleから初のARウェアラブルデバイスである「Google Glass」が発売され、同年にスナップチャット(Snapchat)がセルフィ―レンズをリリースし利用が拡大しました。
ARに対する認知度が一気に広がったのは、スマートフォンでプレイ可能な位置情報ベースのARゲーム「Pokemon Go」が世界的な成功を収めた2016年と言われています。
さらに、2019年にはGoogleからWeb ARがリリースされ、近年ではゲームのみでなくビジネスへの活用もさらに広がっています。
MR(Mixed Reality)とは
MRは、ミクスド・リアリティーと読み、「複合現実」と訳します。
MRはデジタルにより作られた仮想世界に、現実世界を重ね合わせることでその2つの世界を融合し一つの空間とする技術です。
この空間の中では、仮想的につくられた物体と現実の物体をリアルタイムに相互作用させることや、センサーや位置情報、カメラを使用して得られた現実の情報を仮想空間の中に表現することが可能となります。
仮想世界に埋め込まれた情報を頼りにユーザ同士が協力して一つの空間で共同作業を行うことができることもMRの特徴です。
MRは、1994年に岸野文郎氏およびポール・ミルグラム氏が発表した、「A Taxonomy of Mixed Reality Visual Display(複合現実視覚ディスプレイの分類法)」という世界的に有名な論文が発端となっています。
MRはコンピュータービジョン、高度なグラフィック処理、入力およびディスプレイ技術を活用して実現しています。
ARとは似ていますが、バックボーンで用いられている技術が異なります。
VR(Virtual Reality)とは
VRは、Virtual Reality(バーチャルリアリティー)の略で「仮想現実」のことです。
VRはコンピュータによって作られた場面空間や物体で表現された仮想環境を用意し、下界を遮断するヘッドマウントディスプレイを着用することにより目の前で360度の世界を体験することができます。
センサーによりユーザの目の頭きを感知し上下左右にその空間が動くため、ユーザは実際にその世界にいるような没入感を味わうことができます。
現実で見たことがある光景も、宇宙や未来などの全く異なる三次元空間も表現することが可能なことから、さまざまなゲームに用いられています。
また、企業の研修の中でも再現が難しいような場面、例えば、航空業界における操縦訓練や建設業界など危険な場面の予防訓練、小売り業におけるセールシーズンの顧客対応などに幅広く活用されています。
SR(Substitutional Reality)とは
Substitutional Reality(サブスティテューショナル・リアリティー)と言われる「代替現実」という技術開発も盛んに行われています。
SRは現実に存在していたシーンと、人工的に作製・編集されたシーンの2つを交互に組み合わせて体験できるようにした現実を映し出す仕組みです。
過去に実際に経験したシーンを一部再現しながら、その先は編集済みのシーン、シナリオに沿っていくといったようなことが可能となります。
VRは現実世界で簡単に再現することができないリアルなシーンを柔軟に表現でき、没入感を与えることができますが、どうしても体験者は「非現実である」と直感的にわかってしまいます。
一方で、SRは実際に経験したシーンから発展させていくということができるため、主にメタ認知機能と精神疾患を研究する社会心理学の実験や、心理療法の治療などに用いられています。
XR(xReality)とは
今まで解説してきた、AR、MR、VR、SRなど、デジタルまたはデジタルと実態のある現実の空間の組み合わせにより、新たな現実(Reality)を表現する技術を総称してxReality(エックス・リアリティー、またはクロス・リアリティー)と呼びます。
このxRealityは、日々進化していることから、今後新たなRealityが出る可能性もあれば、それぞれわかれているAR、VR、MRなどは今後より融合し、一つになっていくと唱える技術者もいます。
ARの活用事例
では、ARとMRは具体的にどういった場面で活用されているのでしょうか?
それぞれの活用事例について詳しく解説していきましょう。
ポケモンGO
ARと親和性が高いゲーム業界では、ARアプリはすでに一般的になっています。
Appleによれば、すでに数千ものARアプリがリリースされているそうです。
なんといっても有名なのは、位置情報を利用し現実世界にモンスターを登場させた「Pokemon Go」です。
2018年時点ですでに累計ダウンロードが8.5億回を記録しています。
画像引用元:Pokemon Go
ドラクエウォーク
また、2019年にリリースされた、同じく位置情報ARゲームの「ドラクエウォーク」(ドラゴンクエストウォーク)は、リリースから1週間で500万ダウンロードを記録し、ともに現在も驚異的な人気です。
画像引用元:ドラゴンクエストウォーク
その他、海外ではARスポーツゲーム、シューティングゲーム、ボードゲームなども多数ダウンロードされています。
SNOW
また、ARカメラアプリである「SNOW」は、全世界で若年層を中心に4億人のユーザーを持つ大人気アプリです。
セルフィに特化したARメイク機能により、モンスターや動物の耳や鼻、顔を加工することが可能です。
一方で、ARは現実世界をベースにしているため、特にビジネスへの活用が進んでいます。
小売りや製造業などの倉庫作業、また、メンテナンス部門の作業者が、現場で修理作業にあたる際でも問題なく対処ができるようにアシスタントや、トレーニング目的などにも使われています。
さらに、マーケティングの領域と非常に親和性が高く、企業はARを上手く活用することで潜在顧客にも顕在顧客にも効果的にアプローチすることができます。
IKEA
例えば、IKEAではIKEA Placeというアプリを2017年にリリースしました。
これは、自宅など、家具を置きたい場をスマートフォンなどのカメラで撮影し、そこにIKEAがコレクションとして用意した実寸大の家具の3Dモデルを配置して、自分の理想通りの商品、配置となるかを事前に確認できるアプリです。
画像引用元:App Store
ユーザは、自宅にいながら、実際に商品を自宅に置いた際のイメージを視覚的に確認できるため、購入前、購入後において、満足度も高く、返品も劇的に減少しました。
参考:【考察】IKEAのARアプリ「IKEA Place」とは?ARがもたらす大きな変化と小売の未来
ZARA
また、アパレルのZARAは、店舗の中でマネキンの代わりにARで実物の商品を着たモデルが、ランウェイ形式で店内を歩くデモをみることができるZARA ARアプリを試験提供しました。
これを利用したユーザは、ライブで動く商品を見ながら、ワンタッチでそのままショッピングカートに入れることもできるというシームレスな体験ができるだけでなく、再来店率が71%、購買率は40%増加したという数字も出ており、今後再来が期待されています。
さらに、iOS版の「Wanna Kicks」は靴の試着アプリとして、スマートフォンを足にかざすと実物大の靴の3Dモデルを足に当てはめて仮想試着を可能にしています。
画像引用元:App Store
ファッション業界は特にARを活用することで、もっと顧客に便利な買い物体験を提供できるとして期待されています。
MRの活用事例
MRは、特にビジネスシーンでの利用が目立ちます。
特に、複数人での共同作業が可能という利点を活かし、手術をチームで行う医療現場での、事前のシミュレーションや、トレーニングなどに用いられたり、手術中のデータの確認などにも活用されています。
MRグラス「MagicLeap」を使った3D家具の設置シミュレーター
こちらはMRグラス「MagicLeap」を使った3D家具の設置シミュレーターの事例です。
大手住宅機器メーカーのR&D部門による、リフォームをする工事の現場での作業ミスを減らすためにテストされた技術検証用のアプリケーションです。
実際に現場作業をする方々と共に、作業効率の改善に貢献するのか?といった、非常に実用的なレベルでのテストもすでに始まっています。
建設現場向けMR
大手ゼネコンの大林組は、建設現場における作業手順をMR(複合現実)で可視化し、工程管理での有効性の検証をしています。
検証の結果として、駅ホームの補強工事や鉄道上空での橋梁の架設でその有用性が実際に確認できたという報告もあります。
参照:建設現場における作業手順をMR(複合現実)で可視化し、工程管理での有効性を実証
このようにMRは、ARに比べるとまだ実用性の検証フェーズのプロジェクトが多く、かなり実用的になってはいるものの、もう少し普及に時間を要しそうな技術と言えるでしょう。
AR・MRの始め方
これまでARやMRの言葉の意味、そしてどういったところで活用されているのか、その事例について解説してきました。
では、実際に使用するとなると、それぞれのように始めれば良いでしょうか?
AR、MRそれぞれに関して使い方を紹介しましょう。
ARを使うために必要な機器とは
ARは、スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスとそのカメラ機能だけで気軽に使うことができます。
iPhoneには、iOS11以降に「ARKit」と呼ばれる機能が搭載されており、これを使うことによって距離を計算し、さまざまな仮想物体をカメラの中の現実に埋め込むことができます。
また、よりリアルな体験をしたい場合は、ヘッドマウントディスプレイ(Head mounted display: HMDs)という頭に装着するタイプのウェアラブルデバイスを使うことで、さらに本格的な没入体験を楽しむことができます。
例えば、EpsonやGoogleグラスエンタープライズエディション、東芝ダイナエッジなどから製品が発売されています。
さらに、デジタルプロジェクターなどの空間AR(Spatial Augmented Reality: SAR)ディスプレイでもARを体験できます。
操作する際は、HMDsに音声を認識させる他、ゲームコンソールなど手元で操作可能なツールを併せて使います。
MRを使うために必要な機器とは
ARがスマートフォンだけでも対応できるのに対し、MRはシースルー型とよばれるHMDsなどのヘッドセットを使うことが必須となります。
このHMDsは、ヘッドセットを装着しているときでもユーザは、物理的な環境を引き続き見ることができます。
特に、マイクロソフトのホロレンズ/ホロレンズ2は、MRの代表的なデバイスです。
ホロレンズは、元からビジネスでの使用を目的とした機能を装備しており、PCに接続せず、そのままディスプレイとして操作ができます。
マイクロソフトでは、Windows Mixed Realityというプラットフォームを設け、全てのホロレンズ、PC連動型のデバイスもともにコントロ―ルが可能で、AR、VR、MRのどれでも対応ができるようになっています。
なお、他にMagic Leap社の「Magic Leap One」という製品もMR向けとして発売されています。
AR、MR業界をリードする主要企業
画像引用元:medium.com
テック企業のデータベースであるCrunchbaseによれば、2020年6月現在AR、VRなどxReality関連事業を行っている企業は、全世界で6,000社ほどあります。
その中のほとんどが、スタートアップですが、一方でGAFAのうち3社は、今後の業界内の優位性をさらに確立していくためにそれらの企業を買収したり、新たな技術開発で注目されています。
Googleは、2019年までVR用HMDsであるGoogle daydreamを提供するとともに、過去にはVR内でペイントができる「Tilt Brush」、Reality用のオーディオ機器を開発する「Thrive Audio」を買収しました。
しかし、2020年現在ではARに注力すると決めています。
Android搭載端末でのARアプリ開発キットである「AR Core」を公開し、さらなるアプリ開発を支援するとともに、Google glassとなる「Glass Enterprise Edition 2」を2019年に法人向けに発売しています。
また、Google MapでのARナビゲーションも提供しています。
現在、GCP(Google Cloud Platform)、アカウントなど既存、または買収した技術を組み合わせエコシステムを構築を急いでいます。
2022年3月にもARグラス関連の技術を有する企業を買収しており、積極的にこの領域に投資していることが確認されています。
Apple
Appleは、iPhone発売以来、内蔵センサーやカメラの精度を高めてきました。
iOS11では、ARKitが搭載され、2020年末か2021年初頭には、AppleからAR対応のスマートグラスであるApple Glassが発売される可能性があるなど、今後もAR周りのデバイスには注目が集まっています。
また、アプリ開発プラットフォームであるARKitをリリースし、その他「Reality Kit」「Apple マップ」「Apple アカウント」などを利用したエコシステムを構築しています。
Facebookは、2014年にVR作製プラットフォームおよびヘッドマウントディスプレイを開発していたスタートアップ「Oculus」を買収したことにより、AR/VRを強化しています。
Facebookでは、世界中の遠く離れた人とでも、同じ空間を共有することで物理的な距離を縮められるような仮想現実を目指しており、2020年現在では、世界中に5つの研究施設、Facebook Rality Labsをを運営しています。
マイクロソフト
マイクロソフトは前述のホロレンズに加え、エンタープライズ向けに展開済みの、Azure、マイクロソフトアカウント、リンクトイン、Bing Map、Kinect、さらにXboXまで揃え、さらにMR(AR含む)の世界での競争優位を確立しています。
AR・MR業界の最新動向
IDCによると、AR/VRの2020年時点での市場規模は188億円(前年比75%増)となり、その後2023年まで年平均77%ずつ増加していくと予測されています。
特に、コンシューマー向けのビジネスがその成長を牽引し、市場規模全体の7割近くを占めると想定されています。
日本でも、すでにソニーの聖地巡礼アプリによる町おこしや、グリコの商品購入特典でのキャラクターとのコミュニケーション、FXMIRRORやMegane on Meganeによるバーチャル試着サービス、ARキャラクターと一緒に謎解きを行うエンターテイメント型サービスまで幅広く導入されています。
今後、益々さまざまな企業がARを使ったサービスや広告、特典、イベントなどを続々と発表していくことが予想されます。
また、一方でインターネットの次のインフラといわれている「メタバース」と呼ばれるインターネット上での仮想空間の構築も、さらに進んでいくとされています。
このメタバースは、インターネットに平行するもう一つのインターネット仮想世界でもう一人の自分を作ったり、土地の売買やアイテムの売買など無限に表現ができる世界と言われています。
特に、前の章でご紹介したGoogle、Apple、Facebook、マイクロソフトの4社は、このメタバースと呼ばれるインターネット上のAR空間の覇権を狙い、その構築に力を入れています。
メタバースについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
AR・MRをはじめとするRealityの世界の基礎知識、事例、業界動向などを紹介しました。
アメリカやヨーロッパを始めとする国々は、研究機関での専門研究だけでなく、Google、AppleやFacebookといった大企業が、次世代のための新技術を開発し、それらをコアビジネスにするスタートアップの企業買収合戦を行ったりという熾烈な競争を繰り広げています。
日本ではまだ、ARに関わる情報も、ARでビジネスに取り組む人材もそして何よりARをビジネスに活用していくための土壌、投資、実績が十分ではありません。
私たちARマーケティングラボでは、ARを用いたビジネス、特にマーケティング領域への適用方法について、世界中の情報をキュレートしながら、新たな使い方の提案を行っていくことをミッションとしています。
今後もメディアとしてそれらを紹介しながら、日本のARマーケティングの領域をさらに盛り上げリードしていきたいと思います。
ARを活用したいとお考えの方は、こちらからお気軽にお問い合わせください。