OMOとは、「Online Merges with Offline」を略した言葉で、これまでオンラインの中心だったスマホやPCと、従来はオフラインだった店舗や自宅等での顧客体験が一体となった新しいマーケティング手法のことを総称します。
OMOには大きな注目が集まっており、今後はさらに多くの企業が取り入れていく可能性があります。この記事では、OMOの具体的な意味や手法などについて解説しながら、ARを活用した最新のOMO事例や、近年話題の「メタバース」などの新領域との関係性についても考察していきます。OMOを取り入れたいと考えている企業の担当者様は、ぜひ参考にしてみてください。
OMOとは何か
ここでは、OMOの意味や考え方が広まった背景について具体的に解説します。
技術進化がもたらすOMO
これまでのテクノロジーではスマートフォンやパソコンなどのデバイスを通して取得するデータを活用することが主役でしたが、これまでオフラインだった「空間」でのユーザーの行動データを取得できるIoTやARなどのテクノロジーが登場してきました。
IoTを活用すれば、これまで取得できなかったあらゆるタッチポイントにセンサーなどを仕込んでユーザーの行動データを取得することができ、これまでオフラインだった空間のオンライン化が可能です。
ARであれば、スマートフォンやARグラスのカメラを通じて取得した映像などのデータから新しいユーザー体験を作り出し、そこから得られる行動データを活用していくことができるため、オフラインだった空間でのユーザーの行動をデータ化できるようになります。
上記のようなテクノロジーによりさまざまなものがデータ化され、オンラインとオフラインの境目がなくなってきている状況です。今後はどのような場面でもオンラインが中心となり、オンラインとオフラインをまとめて考えるのが当たり前になると予測されます。OMOはそのような状況に対応し、オンラインとオフラインをシームレスにつないで商品やサービスを提供するための考え方です。
OMOを成功させるためのコツ
OMOを成功させるには、さまざまなコツを意識する必要があります。ここでは、具体的なコツを解説します。
タッチポイントを最適化する
OMOでは、タッチポイントの最適化が重要です。タッチポイントとは企業と顧客の接点を表しており、ECサイト、実店舗、アプリなどさまざまなものが含まれます。
タッチポイントを作るには、顧客がぜひ利用したいと思うような商品やサービスを提供しなければなりません。特に、もともと利用頻度が少ない商品やサービスを提供している場合は、積極的にタッチポイントを作り出して顧客と触れあう機会をもつ必要があります。
ECサイトのタッチポイントだけでデータを取得できていた企業やブランドであれば、これまでオフラインだった“お店や自宅でのユーザーの行動データ”と統合して分析するOMOの実現により、より精度の高い顧客体験を提供できるようになるでしょう。
詳しくは後述しますが、国内ではドミノ・ピザ ジャパンが従来はオフラインだった「折込チラシ」や「リーフレット」などの印刷物にARを仕込むことで従来は取得できなかったユーザーの新しい行動データを取得し、これまでのオンラインのマーケティング活動の中にオフラインだったコンテンツまでも取り込んでいくような新たな事例も出てきています。
顧客体験の質を向上させる
OMOは単に魅力的な商品やサービスを顧客に届けるだけでなく、購買体験そのものも最適化する手法です。そのためには、顧客の行動に関するデータを集め、ニーズを正しく把握する必要があります。顧客にどのような体験を提供すれば満足してもらえるのかよく検討しましょう。また、そのためには具体的にどのようなデータが必要で、どの手段でデータを集めればいいかについても把握しなければなりません。課題解決までの流れもイメージしておきましょう。
データをしっかり蓄積する
OMOマーケティングの場合、オンラインとオフラインの両方で取得したデータを活用できます。従来はオンラインのほうがデータを取得しやすい状況でしたが、現在ではスマートフォンやセンサーの活用によりオフラインのデータも取得できるようになりました。よって、顧客がどのチャネルでどのように行動したか簡単に把握できます。OMOを成功させるためには、オンラインとオフラインの両方でしっかりデータを蓄積する必要があります。
OMOマーケティングのために必要なもの
OMOマーケティングを始めるためには、さまざまな準備が必要です。ここでは、具体的に必要なものについて解説します。
データベース
OMOでは顧客データや商品データをはじめとする大量のデータを扱います。それらをまとめて管理するためには、専用のデータベースが必要です。ECサイトや実店舗など複数のチャネルから同じようにアクセスできるよう、仕組みを整える必要があります。単にデータを保管できればいいわけではなく、さまざまなツールやシステムと連携できる環境を整えなければなりません。
すべてのチャネルの情報を有効活用できるようにしましょう。オフラインでのユーザーの行動データの取得にはIoTやARなど様々なアプローチがありますが、その具体的な手法は後ほど具体例とともに紹介します。
マルチチャネル
マルチチャネルとは、商品やサービスを顧客に届けるためのチャネルを複数用意することです。OMOではマルチチャネルを意識したうえで、それぞれの相互作用により売上アップを狙います。
マーケティングに力を入れている企業では、すでにO2Oやオムニチャネルを実施しているところも多いでしょう。それぞれで作ったチャネルはOMOにも活用できます。複数のチャネルをうまく連携させられれば、顧客の行動に関するさまざまなデータを取得できます。
各種システム
OMOを進めるうえでは、さまざまな場面で各種システムを使用します。たとえば、各チャネル同士のデータを連携して活用したり、実店舗でデジタルサービスを提供したりするケースがあります。
実際に導入するシステムは、各企業の戦略次第です。ただし、複数のデータをあわせて効率的に分析してマーケティングに活用するためには、なるべく高機能なシステムを用意する必要があります。さまざまな事例を参考にしながら、自社に必要なシステムについて検討しましょう。
OMOの事例(海外)
まず、先行する海外のOMOの事例についてご紹介していきます。
①WeChat & 十二光年
中国で先行して登場したオンラインとオフラインをマージしたアパレルブランドのOMO事例として、「十二光年」の事例を紹介します。このブランドが秀逸な点は「ECサイト」を敢えて持たずに、中国のコミュニケーションアプリ「WeChat」とリアル店舗だけで大成功を収めたという点に尽きます。
近年、中国では若年層においてアニメ関連商品への高い消費意欲があります。中国における若年層のアニメ関連ニーズに対して主要な購入チャネルはオンラインであり、eコマース経由の購入は約65%と高いシェアを持っています。しかし、オフラインは今でも重要な購入チャネルの一つであり、約45%は店舗で買い物をしているというデータがありました。
そういった状況下で、アニメ愛好家だった十二光年の創業者のCarrie氏は、自身が好きなサブカルチャーコミュニティに向けてWeChatを活用してブランドに関するアンケートを取り、「実店舗に集中してほしい」というユーザーのニーズを見つけます。これは“友達と一緒に商品を選ぶ”というリアル店舗にしか作れないニーズに起因したものでした。
そして、ユーザーの熱望するブランドの形として店舗にフォーカスしたECを持たないブランドとして「十二光年」を立ち上げ、そのままブランドは勢いに乗り、なんとWeChatを運営するTencentを中心に約5億円規模の資金調達まで実現しました。この資本を元手にし、2021年中には新規で30店舗を出店する計画も発表しています。
店舗で使えるクーポンや、各店舗の入荷状況など全てWeChatのアカウントで完結させ、WeChatで顧客データを管理し、ECを持たずにWeChatと店舗だけでOMOマーケティングを実現しています。
②Amazon
Amazonは、ECショップをはじめとするさまざまなサービスを提供するアメリカの企業です。「Amazon GO」というコンビニをオープンし、無人レジを導入しています。顧客はAmzon GOのアプリをダウンロードしておく必要があり、コンビニの棚から商品を取るとバーチャルカートに商品が追加される仕組みです。また、商品を棚に戻せばバーチャルカートからも自動的に商品が削除されます。また、コンビニから外に出ると、バーチャルカートに入っている商品の代金が決済されます。
③Alibaba
Alibabaは、中国でECサイトなどを展開する有名な企業です。スーパーマーケットの「盒馬鮮生(フーマー)」では、モバイル端末で利用できるアプリによるキャッシュレス決済に対応しています。また、商品が置かれている棚にバーコードがついており、スキャンするだけで商品の特徴、産地、政府の許認可証書などの情報を確認可能です。さらに、アプリからの注文も可能で、店舗から3km以内の場所までなら30分で商品を届けてもらえます。
さらに、Alibabaは他社と共同でスポーツ用品店の「INTERSPORT」もオープンしました。店頭には2mの大きなモニターが設置されており、モニターの前に立つと自動的に顔がスキャンされます。モニター上では、店内の商品の試着が可能です。わざわざ着替えなくても済むので気軽に試せます。ビッグデータを活用した分析により、おすすめ商品を紹介するサービスもあります。
店内の商品にはタグがついており、スマートフォンで読み取ればECサイトの「Tmall」からも商品を購入可能です。
④平安保険グループ
平安保険グループは、中国で保険、投資、銀行などの金融サービスを提供しているグループです。平安保険グループは、提供している「好医生(グッドドクター)」というアプリによってOMOを実現している会社です。
もともと中国では「病気で病院を受診するのに数日待ち」といった状況が発生しており、その課題間に対して「数分以内に医師とチャットで健康相談ができる」というソリューションを提供して大人気を博し、グッドドクターのアプリは2億ダウンロードを突破しています。
このアプリを使えば、単にアプリの中で体験が完結するのではなく、自分自身の健康や病気について実際の医師に無料で相談でき、さらにその先にはアプリから実際の医療機関への診療予約も可能です。
平安保険グループはこのこのデジタルとリアルをミックスしたアプローチを通して「ユーザーがいま健康面においてどのような状態にあるのか」という「状況のリアルタイムな把握」を実現し、そのデータを活かして保険の営業活動につなげることに成功しています。
従来はユーザーの属性に対して行っていたマーケティングを、リアルを絡めることで「ユーザーの状況」にまで拡大させることに成功した、世界でも先行するOMOマーケティングの事例と言えるでしょう。
⑤Luckin Coffee
Luckin Coffeeは、中国で展開しているチェーンのコーヒーショップです。2017年の設立からわずか1年半で3,000店舗を開業しています。Luckin Coffeeでの決済方法は完全にキャッシュレス化されており、スマートフォンでの決済が可能です。また、商品はセルフピックアップまたはデリバリーで受け取れます。顧客がコーヒーを飲みたいと思ったときにスピーディーに商品を受け取れるため、高い人気を集めています。
OMOの事例4選(国内)
すでにOMOを始めている国内企業も増えています。ここでは、国内のOMOの事例についてご紹介していきます。
⑥ドミノ・ピザ
こちらはARを活用して実現したOMOの事例です。ドミノ・ピザの世界中のこだわりのチーズをARで啓蒙した事例ですが、ARを活用することで見事にオフライン広告もオンライン化しています。
SNSやインフルエンサーマーケティングなど通常のデジタルプロモーションでもARを展開していることに加えて、従来の折込チラシやリーフレットなどの印刷物にもARを仕込み、印刷物を経由してARを体験したユーザーの行動データも取得可能な体制を構築。オフラインだった広告のオンライン化を実現しています。
こちらは、有名ユーチューバーを活用したインフルエンサーマーケティングとARを組み合わせて展開している様子です。動画の中では印刷物にもARが仕込まれていることが分かります。
従来オフラインだった印刷物を活用した広告が、デジタル広告の中にマージ(統合)されており、OMO広告の国内での先行事例と言えるでしょう。AR体験については以下の記事でも詳しく解説されています。
⑦BEAMS
BEAMSは、アパレルや雑貨などの商品を扱っているセレクトショップです。以前までは実店舗とECサイトの顧客情報を別々に管理していましたが、2016年からは顧客情報を一元管理できるようにデータベースを整備しました。
顧客情報をまとめて管理する体制の構築により、それぞれの顧客の購入履歴も簡単に把握できるようになりました。特に、実店舗ではくわしい情報をもとに接客できるため、より具体的で顧客の役に立つサービスの提供が可能になっています。
⑧Zoff
Zoffは、リーズナブルな価格で眼鏡を提供しているショップです。過去に眼鏡を購入した経験があっても、眼鏡の度数を記憶している人はほとんどいません。
Zoffは顧客が実店舗で眼鏡を購入した際に計測した度数の情報をECサイトと紐付けられる仕組みを導入しています。ECサイトにログインするだけで度数が自動的に反映されるため、スムーズに眼鏡を購入できるようになりました。
⑨サントリー「TOUCH-AND-GO COFFEE」
こちらは、サントリー「BOSS」のオリジナルのボトルコーヒーが注文できるコーヒーショップ「TOUCH AND GO COFFEE(タッチアンドゴー)」の事例です。残念ながら、2021年8月31日をもって閉店してしまっていますが、コンセプトはOMOを出発点にした非常にユニークなものでした。
ユーザーはLINEで事前に注文した自分の好みにカスタマイズした「BOSS」のボトルコーヒーをお店まで取りに行くという形態です。オンラインとオフラインをLINEで繋いでいくような試みは、中国でWeChatと店舗を活用する十二光年の事例を想起させます。国内でも店舗を活用したOMOの成功例が生まれてくることに期待が高まる事例でした。
OMOの未来予測|事例からメタバースとの関係性についても考察
日本の場合、オフラインで利用できるサービスの水準が高いため、デジタル起点のサービスは広がりにくいといわれています。ただし、近年は日本でもキャッシュレス決済が普及しており、少しずつオンラインのサービスも親しまれるようになってきています。
新型コロナウイルスの流行を受け、感染対策のためにオンラインのサービスを利用する人も増えました。その結果、ECサイトを利用する顧客も多くなっています。そしてさらには「ECの次」とも言える、「メタバース」と呼ばれるバーチャル空間内で人々がショッピングをするような新体験まで生まれてきました。
このような状況を考慮すれば、今後は日本でもオフライン・オンラインの垣根がない「OMO」が益々浸透する可能性は高いと考えられます。OMOを導入するためにはさまざまな準備が必要です。成功するためには早いうちに準備を始め、データを集めながら顧客のニーズを把握するべきでしょう。
以下からは、メタバースを活用する企業の先行事例を紹介します。
⑩ウォルマートのバーチャルショッピング
冒頭の中国のWeChatと十二光年の事例にもあったように、もともとのOMOは「お店で友達と一緒に買い物をする」というお店に根ざした需要からスタートしているものも見受けられます。
ただし、これからやってくる「メタバース」の時代においては「バーチャル空間で友達と一緒に買い物をする」というように、店舗体験もリアルな実店舗へ行く必要がなくなるため、小売や飲食などの店舗ビジネスを行う企業としては、従来のOMOとはまた違った概念でマーケティングに取り組む必要が生まれてくるでしょう。
以下は小売業界の世界最大手である米・ウォルマートのバーチャルショッピングの参考動画です。
このウォルマートのバーチャルショッピング、このタイミングで見るとますますリアリティを感じるpic.twitter.com/yOQENAvKY4 https://t.co/aelmdnpA5T
— Tomohiko Murakami@AR (@can_murakami) February 25, 2022
「メタバース」や「NFT」のような新しい概念の登場に伴って、これまで先行してきた中国や米国企業の店舗を起点としたOMOマーケティングの次の一手はとても興味深いテーマでもありますよね。
⑪Perfect社のメタバース
ブロックチェーン技術で作られた「NFT」というコンテンツだけでスニーカーなどのファッショ内テムを展開するブランドも出てきており、そういったバーチャル世界の中だけで展開している「デジタルファッション」を現実世界へと逆輸入するような事例も出てきています。
また、ARを使った「バーチャルメイク」で世界的に先行している台湾のPerfectという企業は、すでに自社のメタバース世界の中で様々な商品棚やブースを持ったビジネスを展開しています。
小売業界におけるメタバースの最新動向が気になるという方は、以下の記事をご覧ください。
⑫スターバックスが店舗に導入する最先端のAR技術
スターバックスでは、2020年から毎年恒例で店舗マーケティングにAR技術を導入しています。ハッシュタグ「#スターバックスさくら2022」で調べると、店舗にAR技術を導入するプロモーションがいかに実用的かを知ることができます。
お店に来てくれたお客様限定で、Wow!と心動かすデジタルコンテンツを仕込み、お店とソーシャルを連動させてブランドのプロモーションを成功させる。スターバックスはARを活用することでリアル店舗をオンライン化させている最先端を行く企業と言えるでしょう。詳しい考察は以下の記事に記載されています。
まとめ
OMOは世界的に注目されている考え方であり、日本国内でも導入する企業が増え始めています。今後はOMOの考え方がさらに普及することでしょう。
株式会社OnePlanetは、先述のドミノ・ピザ ジャパンのOMO広告の事例をはじめとして、AR技術をベースにしたOMOの設計〜実装〜導入後の効果検証まで強みがあります。
高い技術レベルはもちろん、ベースとなるOMOの設計から導入後の効果検証・レポーティングまで高品質なサービスをワンストップで提供しており、成果に直結する提案が可能です。トレンドの最先端を行くブランド創りに貢献することもできます。これからOMOの一環としてARを取り入れることへご興味があれば、ぜひお気軽にご相談ください。