
AR(Augmented Reality)の名で親しまれている「拡張現実」というテクノロジーですが、次世代のAR活用に向けた動きも進んでいます。現行のARですら次世代の技術と言われる中、二世代先を行く先端技術ともされるのが「ARクラウド」です。今回は、クラウド化したARは従来のARと比べて何が違うのか、どのような強みを持つのかについて紹介していきます。
目次
ARクラウドとは
まずは、ARクラウドとはそもそも何かというところから解説していきます。ARクラウドは、その名のとおりクラウド技術と連携しているARのことを指します。
他者と共有できるAR
これまでのAR技術は、体験したことがあればご存知のとおり、基本的には一人で利用することを前提としたサービスがほとんどでした。従来のARでは、ARデバイスを使用しているユーザー本人にしか満足のいく体験を届けることができなかったためです。
しかし、ARクラウドにおいては他のユーザーとともにARを体験することができるようになっています。しかも、単に同時並行でARを体験するだけではなく、まったく同じAR空間を共有することができます。
例えば、テーブルの上にARのケーキを出現させるとしましょう。これまでのARの場合、各ユーザーは自機ARデバイスに依存した体験にとらわれていました。たとえテーブルにケーキが浮かんでいるという様子を同時に体験できても、表示されているケーキは別個の存在でした。ユーザーAがケーキに触れ潰れていても、その様子はユーザーBのケーキに反映されなかったのです。
しかし、クラウドARにおいては、ユーザーAもユーザーBも同じARケーキを共有することができます。ユーザーAがARケーキに触れケーキが崩れる様子は、ユーザーBからも確認することができるのです。
ARの誕生初期から実現していたARクラウド
このようなAR空間の共有は、AR黎明期の時代からそのあり方における模索が進んでいました。例えば、ARアプリの先駆的存在である「セカイカメラ」は、まさにARクラウドを実現したアプリの一つでした。
セカイカメラは、2009年よりサービスを開始しましたが、現在はすでに終了しているARマッピングアプリです。スマートフォンのカメラで周りの様子を捉えるとARとしてあちこちにピンが表示され、その場所のレビューやコメントなどが表示されるという機能を有していました。
自分で各スポットについてのコメントをARで記録しておくだけでなく、世界中のユーザーのコメントやピンがARで表示されるという機能性は、当時大きく注目されていたのです。AR空間は単に個人で体験するものではなく、いずれは大勢の人々がリアルタイムでAR上でつながりインタラクティブな体験を共有することが、当初より求められてきたのです。
ARクラウドが注目されている理由
そんなARクラウドが、今になって再び注目を集めている理由についても解説していきましょう
ARクラウド誕生の背景
ARクラウドという構想が誕生し今再び注目を集めている背景の一つには、ARデバイスの技術革新が挙げられます。ARにおいて重要なことの一つに、どれだけ高性能なハードウェアを用意できるかという点があります。
優れたグラフィックのAR表示が可能になっても、それに対応するデバイスを用意できなければ話になりません。近年のARデバイスは、10年前と比べて飛躍的に技術力が向上し、まるで普通のメガネと変わらないような大きさの「ARグラス」も登場しつつあります。
クラウドARは常にネットワークに接続し、他のユーザーとの同期性も確保しなければなりませんが、次の5年~10年で、この技術は飛躍的に進歩していくことになるでしょう。同期性に関して言えば、5G通信のように公共の通信環境が抜群に向上していることも理由の一つに挙げられます。
ARのように大きな容量のデータをリアルタイムで送受信するというのは、インフラに依存する側面も大きく、従来の通信環境では難しい部分もありました。しかし、5Gの登場によりこの点においても大きな改善が期待できるでしょう。
そして、何と言ってもスマートデバイスが幅広く安価に普及したことが、ARクラウドやAR技術そのものをポピュラーにした要因であると言えます。特に、スマホの普及率は10年前と比べ格段に上昇しており、多くの人が当たり前のようにスマートデバイスを毎日使用しています。ARに対応する高性能なスマホが普及することで、ARを利用するハードルは低くなり、ARクラウドのような集団でのAR利用についてもその意味はますます大きくなっていきました。
ARクラウドと「ミラーワールド」
ARクラウドが普及したことによって、実現するとされているのが「ミラーワールド」です。ミラーワールドは近年注目されているキーワードの一つで、端的に言えば仮想世界にもう一つの現実を作り出そうという考え方です。
セカイカメラが捉えた世界には、現実の建物やスポットにさまざまなレビューやコメントが寄せられ、それがARとして現場に表示されていました。ミラーワールドはARによって、このような体験をさらに拡張していこうというものです。
AR空間のクラウド化により、ユーザーはARゴーグルやカメラを通じてさまざまなARコンテンツを楽しむことができます。あらゆるレビューのピンが目に入るものすべてに打たれていたり、ナビゲーションの案内がそこかしこに流れていたり、あるいはポケモンがいたるところで生活しているといった具合です。
このようなARの世界を、クラウド化によって世界中の人とリアルタイムで共有していこうというのが、ミラーワールドの世界観です。これを実現する上で、ARクラウドという技術は非常に大きな役割を果たしているのです。
ARクラウドの応用によって可能になること
ARクラウドの目指すビジョンについて理解したところで、再びこの技術が実現してくれる可能性について考えていきましょう。
- ユーザー同士のインタラクティブな体験
- 現実世界のオブジェクトへのさらなるコミット
- より正確なドローンやロボットの運用
ユーザー同士のインタラクティブな体験
1つ目は、ユーザー同士のさらなるインタラクティブな体験です。例えば、大人気のARゲームである「ポケモンGO」のケースを考えてみましょう(知らない方は下のリンクから確認してみてください)。
このゲームは、今のところポケモンをプレイヤーが一人で捕まえることを前提としており、リアルタイムで他のプレイヤーが干渉することはできません。しかし、ARクラウド化したポケモンGOでは、一人のプレイヤーがポケモンにエサを与えているすきに、もう一人のプレイヤーがモンスターボールを投げ、ポケモンを捕まえやすくするといった戦略的なプレイが可能になるかもしれません。
あるいは、ARでお互いのポケモンを戦わせるという、白熱した対戦システムを導入することができるかもしれません。リアルタイムでポケモンに指示を送りバトルを楽しむという、誰もが夢見た世界観がARクラウドによって実現可能になるのです。
現実世界のオブジェクトへのさらなるコミット
あるいは、現実世界に対してARを用い、さらに利便性の高い生活ができるようになるかもしれません。レビュー機能のさらなるAR化や、一斉送信でARナビゲーションを各ユーザーに送信し、イベント会場へのナビ案内や避難経路を表示させることもできるでしょう。あるいは、現実に存在するマップにユーザーがARで書き込めるようにし共通を可能にすることで、ARユーザー同士のコミュニケーションを向上させることもできるでしょう。
より正確なドローンやロボットの運用
ARクラウドは、ドローンやロボットが情報を認識する上でも役に立つとされています。単なるマッピングによる自動配達や自動運転だけでなく、リアルタイムで変化する現実世界の情報を共有できるようになることで、事故のリスクや配送ミスは大幅に低下します。人間以外にとっても、ARクラウドは大いに役立つ技術となるでしょう。
すでに登場しているARクラウドの事例
最後に、すでに導入が進んでいるARクラウドの事例について紹介しておきましょう。
事例①:6D.ai
画像引用元:6D.ai公式
6D.aiは、名門オックスフォード大学の学生たちによって立ち上げられた、ARソフトのスタートアップです。AR開発者向けの開発キット(SDK)を取り扱うスタートアップで、通常のスマホのカメラでも3D空間を解析し、複数デバイスで同じデータを扱えるというARクラウドとしての要素を備えます。現在はポケモンGOでおなじみのNiantic(ナイアンティック)が買収し、スマホゲームのさらなるクラウドAR化が期待されています。
事例②:FACTORIUMの「floatboard」
画像引用元:floatboard
東京を拠点に活動するスタートアップのFACTORIUM(ファクトリアム)は、リモート環境でも複数人でコラボレーションが行える「floatboard」と呼ばれるアプリを展開しています。floatboardは、スマホのARカメラを使ってホワイトボードを仮想敵に生成し、参加者が自由に書き込みを加えることができるアプリです。リモート空間でもホワイトボードをARで共有しながら会話をすることができるため、まるでその場にいるかのようなブレインストーミングなどを行うことも可能です。
事例③:プレティア・テクノロジーズの体験型AR
画像引用元:プレティア・テクノロジーズ
プレティア・テクノロジーズも東京のスタートアップで、ゲーム形式でのクラウドAR運用を進めています。GPSを使って他のユーザーや宝のありかを探すAR体験や街全体を使って他のユーザーと連携しつつ、AR世界を冒険することができるイベントなど、さまざまなコンテンツを展開しています。
まとめ
ARクラウドは、ARをさらにポピュラーなテクノロジーとして普及させていくためには欠かせないアイデアで、次々とクラウドを取り入れたARスタートアップが誕生しています。ARのクラウド化が普及すれば、コンテンツの幅も増え、さらにARが身近な技術となっていくことでしょう。
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