
コロナが落ち着いた昨今、人々のライブや音楽イベントへのモチベーションが再燃しています。
しかし同時に、最近ではApple社が最先端のARデバイスを発売するなど、AR技術を利用したバーチャル体験への関心も高まっており、アーティストとファンを繋ぐ新たな形態として確立されつつあります。自宅にいながらも、まるでライブ会場にいるかのような没入感を味わえるAR音楽体験は、新しい時代のエンターテインメントの形として注目を集めています。
この記事では、ポストコロナ時代における音楽業界でのAR活用事例と、その魅力について詳しく掘り下げていきます。
目次
- そもそもARとは
- ARとマーケティングの相性がいい理由とは
- 音楽産業でのAR活用事例
- 音楽業界でのAR活用事例①Maroon5「Wait (Snapchat Version)」のミュージックビデオ
- 音楽業界でのAR活用事例②chelmico「Easy Breezy」のミュージックビデオ
- 音楽業界でのAR活用事例③KING GNU「どろん」のミュージックビデオ
- 音楽業界でのAR活用事例④ライブパフォーマンス
- 音楽業界でのAR活用事例⑤男性アイドルM!LKのInstagram AR
- 音楽業界でのAR活用事例⑥PNLのARを活用したプロモーション
- 音楽業界でのAR活用事例⑦ソニーミュージック・ラテンのARを活用したプロモーション
- 音楽業界でのAR活用事例⑧ピンクフロイドのARを活用したプロモーション
- 音楽業界でのAR活用事例⑨ORANGE RANGEのTiktokを使ったARプロモーション
- ノーコードでWebARを制作できるツールも登場
- まとめ
そもそもARとは
ゴーグルをはめるVRの方がイメージが湧きやすいと思うのですが、VRは「Virtual Reality」の略で、VRのゴーグルがスマホに置き換わった版がARと考えるとわかりやすいかもしれません。ARとは「Augmented Reality」の略で、一般的に「拡張現実」と訳されます。ゴーグルの中のバーチャルワールドではなく、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を“仮想的に拡張する”というものを「AR」と総称します。
VRとの違い
ARと似た言葉としてVRというものがあります。VRとはVirtual Realityの略であり、VRゴーグルを装着した向こう側の世界が100%バーチャルな世界になる体験を指し、まるで自分がデジタル世界に入り込んだような感覚になります。VRも3Dなどのデジタル表現を駆使したものですが、現実世界にバーチャルな視覚情報を重ね合わせるARとは異なる体験といえるでしょう。
ARの技術については以下の記事にも詳しくまとまっています。
ARとマーケティングの相性がいい理由とは
ARとマーケティングは、相性のよい組み合わせです。なぜARとマーケティングは相性がよいといわれているのかを解説します。
ユーザーも楽しめる
ARの大きな特徴が、ユーザーが楽しみながら情報を得られることです。ARを取り入れた広告は、企業側が伝えたい情報を届けるだけではなく、ユーザーが能動的に楽しめます。結果として、ユーザーの記憶に残るうえに、企業に対し好印象を持つようになるというメリットがあります。スポーツ業界であれば、大好きなアーティストのフェスに行けなくても目の前の現実世界にアーティストが出現してくれるようなAR体験はファンの心を動かしますよね。
情報が拡散されやすい
先述のとおり、ARはユーザーに楽しい経験を与えながら、情報が届けられます。楽しかった、興味深い体験だったという印象が残れば、ユーザーがその経験を誰かに伝えたくなります。SNSなどのユーザー数が多いプラットフォームで紹介されると、さらに拡散されて多くの人にリーチできるでしょう。
音楽産業でのAR活用事例
以下より国内外の音楽業界でのAR活用事例を具体的にご紹介していきます。
音楽業界でのAR活用事例①Maroon5「Wait (Snapchat Version)」のミュージックビデオ
Maroon5もYoutubeのオフィシャルアカウントでARを活用したMVをリリースしていました。
先述の二つとは異なり、楽曲のための本丸のミュージックビデオではなく、「SnapchatのARフィルターを使ったバージョン」という「おまけ」っぽい位置付けのようではありますが、そこはMaroon5。再生回数は2,000万回を超えておりました。
こちらは楽曲のために作られた専用のミュージックビデオではありませんが、SnapchatやInstagram(およびFacebook)ではアプリ内のカメラにオリジナルARフィルターを制作できるため、確かに簡易的にARを活用したミュージックビデオを制作することができます。これも一つの面白いアプローチだなと感じます。
音楽業界でのAR活用事例②chelmico「Easy Breezy」のミュージックビデオ
マイケル・ジャクソンやビョークなどの名だたるミュージシャンが、すでにARを自身の作品に活用しています。そうした流れを受け、最近は日本でもARをミュージックビデオなどに利用するミュージシャンが増えてきました。
日本の女性ラップ・デュオ、chelmico(チェルミコ)さんの「Easy Breezy」という曲のミュージックビデオ。こちらめちゃくちゃ格好良いので、ぜひ見ていただきたいです。まさにAR時代のMVという感じでリアルとバーチャルを絶妙に行き来しており、見ているだけでとてもワクワクします。ARというよりは「ARっぽい演出の映像作品」ですが、未来的な空間体験は心を動かしますね。
曲ももちろんかっこいいし映像がAR時代のMVってかんじでめっちゃいい!
chelmico「Easy Breezy」 https://t.co/M1fv9Ja3wR @YouTubeさんから
— DJRIO.eth @ REALITY (@djrio_vr) January 17, 2020
音楽業界でのAR活用事例③KING GNU「どろん」のミュージックビデオ
日本の4人組ミクスチャーバンド、King Gnu(キングヌー)さんの楽曲「どろん」のミュージックビデオです。ARを活用されて現実が拡張されており、こちらもとても格好良いです。
様々なメディアでも話題になりました。
King Gnu、AR技術を駆使した「どろん」のMVを公開#KingGnu #CEREMONY #スマホを落としただけなのに https://t.co/zWj2wPC4MH
— Rolling Stone Japan (@rollingstonejp) February 14, 2020
記事内には、ディレクターを務めたOSRIN(PERIMETRON)さんからのコメントが出ておりました。
世の中曖昧にされた情報が多い気がして、流されやすい時代やと思ってます。我ら大衆が何に目を凝らさせなきゃいけないのかってのはずっと頭の中にあり、それをMargtと一緒に演出しました。固く、より渋く出来上がったと思います。
– OSRIN(PERIMETRON)
コメントのエッセンスを抽出すると、情報が多い時代、大衆に埋もれないような存在感を発揮する上で、ARが一役買ったとも考えられます。
音楽業界でのAR活用事例④ライブパフォーマンス
マドンナやクリス・ブラウンなどの専属ダンサーを務めていたダンス・アーティストのケント・モリ氏が、ARと音楽を融合した新たなパフォーマー、AR Artist KENTOとして2020年に再始動を果たしました。こちらのライブパフォーマンスは、リアルタイム・モーションキャプチャーという技術を活用したリアルタイムでARを生成しています。
We’re still really sad that we can’t go on tour but thanks to modern technology you can watch your own personal “Augmented Reality” Real Estate Show anywhere …. inside your home. Watch the Quarantour on your mobile device now!https://t.co/aQHKHTnKUS pic.twitter.com/cELNGAisIu
— Real Estate, band (@realestateband) April 13, 2020
こんな感じで大好きなアーティストのミニチュア・ライブが自宅でも目の前で見ることができたらとても嬉しいですよね。こういったARの活用事例は国内でも増えてきそうです。
音楽業界でのAR活用事例⑤男性アイドルM!LKのInstagram AR
5人組男性アイドルグループ「M!LK」の公式InstagramでリリースされたARです。モチーフである「Big Love」が空間に出現し、Instagramで撮影ができるようになっています。
ファンが喜ぶ撮影体験を公式SNSのアカウント内で展開し、オーガニックな投稿・UGCを通じてファン経済を拡大するARマーケティングは今後も大きなトレンドとなっていくでしょう。
公式アカウント:https://www.instagram.com/milk_official_2014
音楽業界でのAR活用事例⑥PNLのARを活用したプロモーション
こちらはフランスで活動する音楽アーティスト「PNL」がアルバムのリリースプロモーションにInstagramのARを活用した事例です。アルバムの世界を現実世界でも体験できるARを活用したこちらのプロモーションは、以下のような効果があったと言われています。
ARを活用したプロモーションの効果として、以下のような効果があった。
- 先進的なプロモーションが話題になり主要な音楽メディアに取り上げらた
- SNSのフォロワーが増加した
多くのメディアに取り上げられて、認知度の拡大に成功したとのことでした。ARを活用してアルバム・ジャケットの世界に没入できるプロモーションはますます事例が増えそうですね。
音楽業界でのAR活用事例⑦ソニーミュージック・ラテンのARを活用したプロモーション
ラテン・アメリカにローカライズしたソニーミュージックの存在は、国内ではあまり知られていないかもしれません。コロンビアやメキシコなど、ラテンアメリカ地域のミュージシャンを取り扱っています。
そんなSONY MUSIC LATINは、ラテン音楽とともに楽しめるAR体験を公式InstagramでARを提供しています。同社の公式Instagramアカウントにて提供されている楽しいAR体験についてご紹介させていただきます。
ソニーミュージック・ラテン
ソニーミュージックでは世界中にローカライズされたアカウントを運用しており、このラテンのアカウントではラテンアメリカ地域の様々なミュージシャンの情報が日々投稿されています。
AR体験について
同アカウントの☺︎のマークからAR体験を行くと、2020年5月時点ではなんと7つものARが提供されています。
(※2021年4月時点で一部が使えなくなっています。)
どれも楽しいAR体験でラテン音楽の魅力に引き込まれるものばかりですが、今回は特に「Maluma – NSMQ」というARをご紹介します。Malumaとは、ニューミュージックに所属するアーティストのことです。
ARを起動させると、以下の3つの演出が始まります。
・自分のいる空間が水族館の水槽の中のような世界にワープ
・サングラスがかかる
・気持ちの良いラテン音楽がかかる
これはラテン音楽を好きになってしまいます。他にも複数のARが公式Instagramにリリースされているので、ぜひ楽しいラテンワールドをアカウントから体験してみてください。ARには音の演出も加えられるため、このようにミュージシャンの世界観を体験できる視覚的な演出に音を載せる体験の提供は抜群に相性が良いと感じました。
音楽業界でのAR活用事例⑧ピンクフロイドのARを活用したプロモーション
イングランド出身の世界的なロック・バンド、ピンク・フロイド (Pink Floyd) は、プロモーションにARを積極活用しています。ピンク・フロイド(Pink Floyd)は2019年末、新たなボックスセット『The Later Years 1987-2019』の発売を記念して、アルバム・カヴァーのAR体験が楽しめる特設サイトPFLaterYears.comを開設しました。つまりこちらはInstagramではなくWEBブラウザを活用したARマーケティングの事例となります。
スマホでWEBブラウザを立ち上げるとAR体験ができるページに遷移する導線が設置されています。
「8th Wall」というウェブARプラットフォームを使ったARで、スマートフォンまたはタブレットがあれば、アプリのインストールなしに直接AR(拡張現実)体験が楽しめます。実際に使ってみると、空間中にピンク・フロイドのアルバムジャケットに出てくるオブジェクトを出現させることができ、さらにアニメーションもついて動き出すような演出になっています。
リアルにアルバムの世界の中に入り込んだような体験ができるので、ファンは感動するのではないでしょうか。
Bring the iconic album covers from Pink Floyd's #LaterYears to life in AR (Augmented Reality). Place elements of the artwork in your world and become part of the design. Available as lens on Facebook and Instagram or as web AR experience (at https://t.co/5OdrsXOaCm) pic.twitter.com/KHxtfffVsO
— Pink Floyd (@pinkfloyd) December 18, 2019
さらにInstagramでも
公式インスタアカウントでもARを提供されており、同じく自分のスペースにアルバムにいるキャラクターを出現させることができます。
上記以外にも合計6つのARコンテンツをInstagramのアカウント内で提供しています。
ピンク・フロイドはWEB ARと共通のコンテンツをInstagramでも提供しており、同じ3Dモデル+アニメーションのコンテンツを複数のチャネルで展開するアプローチをとっています。かなり積極的にARを活用しているミュージシャンと言えそうです。世界的なミュージシャンのARの活用方法をご紹介させていただきました。国内のミュージシャンでのAR活用はこれからさらに発展するでしょう。
音楽業界でのAR活用事例⑨ORANGE RANGEのTiktokを使ったARプロモーション
2024年2月22日にORANGE RANGEの新作『Zombie』がリリースされ、これに伴って、TikTokにて誰でもゾンビに転生することができる顔認識型のAR “レンジZombie” が公開されました。最大5人まで撮影が可能となっています。
ポイントは、ARと「ハッシュタグ」を連動させた投稿促進施策となっている点です。Tiktokにて “#ARレンジZombie”をつけて、ORANGE RANGEの新曲『Zombie』の楽曲を追加で選んで投稿すると、Zombieに転生中の“Specter(亡霊)紙製お面”が抽選で25名にプレゼントされるというキャンペーンを展開し、ARを使ったマーケティングを展開しました。
ノーコードでWebARを制作できるツールも登場
「ARコンテンツで新しいユーザー体験を実現する」というニーズに対して、先ほどのピンクフロイドの事例のように専用アプリのインストールが不要な「WebAR」を選択するケースが増えています。
ARを体験するために専用アプリのインストールを必要とすると、アプリを持っていないユーザーは「それならARわざわざやらなくて良いか」と離脱してしまうことも多かったからです。QRコードを読み取るだけで体験できるWebARはARの利用者の裾野を大きく広げました。
そしてさらにWebARの利用が広がっている背景に、ノーコードで簡単にWebARコンテンツを制作できるツールの登場があります。もともとWebARを活用したキャンペーンは0から開発する事例が主流でしたが写真や画像をアップロードするだけで、プログラミングをしなくてもARを制作できるため、プログラミングの知識や外部の制作会社を必要とせず、コストを抑えて自分達でARを使ったキャンペーンを展開できます。
WebAR制作ツール「プラネター」を活用することで、ARコンテンツの制作や、GPSによる位置情報の制御、ARを使ったスタンプラリーの制作まで、システムの中で多様なAR体験を簡単に実現できてしまいます。実際に長野県のスキー施設では、10メートル級の巨大忍者が出現するARを、システムに3Dコンテンツをアップロードするだけで実現しています。
例えばイベントやライブ、コンサートなどの会場限定コンテンツや、あるいはアルバムジャケット限定のARコンテンツ、ファンクラブ限定コンテンツなどをこういったツールで手軽に制作したて音楽ビジネスで活用するのも今後は利用が進みそうです。他にも様々な業界でWebARの手軽な導入が進んでおり、プログラミングをせずに簡単にオリジナルのWebARコンテンツを制作するツールを検討してみるのも良いでしょう。
まとめ
以上、国内外の音楽業界でのAR活用事例をご紹介しました。
「どろん」のミュージックビデオのように目玉がパチクリとまばたきをするなど、バーチャルなコンテンツにアニメーションが加わると一気にコンテンツに生命感が感じられるようになります。歌詞の中にある情報や、アルバムジャケットの中に描かれるアートワークなどをモチーフにしたARコンテンツをミュージックビデオの演出に活用するアプローチは、今後もっと加速しそうです。
ファンが日常的に写真や動画を撮影するSNSカメラにミュージシャンのオリジナルARを載せることで、ファンの生活の中にアーティストのコンテンツが入り込むような体験を提供している事例もあり、音楽業界 × ARの今後の伸び代はまだまだ大きくなると感じさせます。ARを活用したマーケティングはあらゆる産業で日増しに重要になっており、音楽業界ではこれから必須のアプローチとなるでしょう。
株式会社OnePlanetは、今回ご紹介したようなARマーケティングについて、企画から開発、分析やレポーティングまでワンストップでの提供が可能です。すでに様々な業界でARの導入実績があり、成果を生むARの活用ノウハウを有しています。
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