いま、最も大きな変化を求められている小売業界で注目を集めている技術が「AR」です。
この記事は、実店舗とネットショップ(ECサイト)の両方で販売促進の武器となるARについて、特に実店舗でのAR活用方法についてフォーカスし、具体的な事例を交じえながらわかりやすくお伝えしていきます。
実店舗でのAR導入を考えている方が、ネットショップ(ECサイト)まで含めたAR導入の全体像をつかむための参考になれば幸いです。
目次
そもそもARとは
そもそも、ARは「Augmented Reality(=拡張現実)」の略です。
ARによく似た技術に「VR」がありますが、VR(Virtual Reality・仮想現実)はVRゴーグルの中の100%バーチャルな仮想世界にユーザーが入り込む体験を指します。
それに対して、ARはスマホなどのデバイス越しの現実世界にバーチャル映像を重ねて表示させる技術のことです。
- VR:100%バーチャル
- AR:現実世界にバーチャルな味付けをしたもの
という棲み分けです。
実店舗へのAR導入は2つのパターンに分類される
実店舗へのAR導入の目的は、大きく分類すると2パターンに収斂(しゅうれん)されます。
- 店内の商品情報の説明や、店内ナビゲーションなどの直接的な価値
- 店内体験のエンタメ性を高める間接的な価値
この記事では、特に「パターン②-2:店舗のエンタメ化」について、具体的な事例を交えながら紹介していきます。
①-2:店舗の機能拡張が気になる方は、こちらの記事をチェックしてみてください。
ARを活用した店舗エンタメ化①:HIPANDA(ハイパンダ)
ARを活用したストア体験の拡張の事例として、中国発のストリート・ファッションブランドの「HIPANDA(ハイパンダ)」の事例があります。
HIPANDAは欧米を中心に若者たちからセレブまで浸透しているブランドで、2019年4月には表参道に旗艦店がオープン。
同店内にはARを用いたさまざまな仕掛けがあり、実店舗がエンタメ施設化した先行事例となりました。
下の動画を見ると、HIPANDA OMOTESANDO FLAGSHIP SHOPの「店舗の体験コンテンツの充実度」はアパレルショップという枠を飛び越えて、エンターテイメント施設と呼べるようなレベルに到達していることがわかるでしょう。
ECサイトが充実しARでアイテムの試着ができるような社会が到来し、「単に商品を買うだけであればネットショップで十分、わざわざ実店舗に出向くのであれば体験を楽しみたい 」と考える若者たちに支持されています。
この事例のように、ARは店舗のエンタメかという文脈でもコマースに大きな影響をもたらします。
ARを活用した店舗エンタメ化②:Walmart
2018年のクリスマスにウォルマートが実施したHolidays Campaignの様子を見ると、ARが店舗内のエンタメ性を高めていることを理解できます。
100%のバーチャル世界に書き換える「VR」と比べると、ARは現実世界にバーチャル情報を重ねて演出するため「商品の陳列棚の間にある通路=リアル空間」に交通の障害物となるものを設置することなくバーチャル情報を表示することができます。
下の動画は、Googleが一緒にWalmartのショッピング体験を設計したコンセプト動画です。
このような情報を見ると、未来のお買い物がこれまで以上のエンターテインメントになることが直感的に理解できます。
ARを活用した店舗エンタメ化③:スターバックス
2020年2月に実施された、スタバ店内で一足早くお花見ができる桜ARを紹介しましょう。
店内にQRコードが記載されたポップが設置され、そこから入らないとAR体験ができない導線になっているため、「店舗限定」の桜AR体験になっています。
QRコードから専用のページ(LP)へと遷移して……
専用ページ内に設置されているARカメラを立ち上げると……
店内に素敵な桜が咲きました!
花びらが舞い落ちる演出もあるかなりリアルな桜なので、季節のドリンクと一緒に撮影している人も多くいました。
ストアへのAR導入は、スタッフのオペレーション負荷の低い設計も大変重要になりますが、その点も丁寧に配慮されたARの導入となっており、洗練されたAR導入はとても参考になります。
こちらに詳細がまとまっているので、ぜひチェックしてみてください。
関連記事:スタバの桜ARやった?StarbucksのARを使ったリアル店舗マーケティングについての考察レポート
ARを活用した店舗エンタメ化④:Adidas London
続いて、Adidas Londonによる店舗内の新しいカスタマーエクスペリエンスを創造する目的で作られた「Instagram AR」を紹介しましょう。
3種のアート作品が実際の店内に展示されており、その作品に向けてスマホ(Instagramのストーリーズ内カメラ)をかざすと初めてARが起動する=来店した人にしか楽しめないARを提供しています。
Adidas Londonの実際の公式Instagramアカウントで提供されているARを起動すると、下のような画面が立ち上がります。
「アディダスと共に、未来へ行こう。」
「ストア内で3つのAR体験を探そう。」
上のように表示され、右にスワイプすると以下のようにアディダスのアイテムをモチーフにした作品が表示されます。
実際に店舗でその作品にカメラをかざすことで演出が起きるという仕掛けになっており、お店にいない人は体験を楽しむことができません。
ARを活用して場所の価値を高めるアプローチには大きな将来性があります。
ARを活用した場所のエンタメ化⑤:Mavericks(NBA)
店舗ではなくスタジアムの事例ですが、同じくARを活用して場所のエンタメ性を高めた素敵な取り組みです。
NBA(北米の男子プロバスケットボールリーグ)のチームである「Mavericks」では、ポイントガードであるDennis Smith Jr.選手の巨大な壁画が実際にスタジアム付近に設置され、その壁画を画像として認証すると、同選手のAR(拡張現実)を介したスラムダンクを見ることができるという体験を提供し、大いに話題になりました。
2018年のものですが、今見ても大変格好良いのでぜひ一度見てみてください!
このように、「場所限定」のAR体験を提供することは、その場所の価値を高めます。
リアルに内装・外装工事などを行って場所の価値を高めるのではなく、バーチャルなコンテンツで場所の価値を高められることはARの魅力です。
話題を呼ぶために必要だった施工コストの面だけで比較しても、事業者がARを活用できるか否かは大きな経済格差になっていくでしょう。
関連記事:スポーツビジネスのインスタグラムARフィルター活用事例|NBAチームMavericks編
まとめ
外出をベースにしてきた小売業界は激変の最中にあり、変化を支える重要な技術の一つがARです。
その一方で、ARのような新たな技術が登場すると、それを利用すること自体が目的となってしまい「期待して投資してみたけどイマイチ成功しなかった」という失敗を体験したことがある方も多いでしょう。
導入することによって「どのような効果をもたらしたいのか?」「どうすれば効果的に利用できるのか?」ということを事前に検証し、自社に一番効果的な方法でARを導入することが重要です。
私たちOnePlanetは、さまざまな業界・業種でのAR導入事例があります。
今回紹介したようなAR体験の導入にご興味があるという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
<関連記事>