AR(Augmented Reality、拡張現実)は、ここ数年ですっかり耳に馴染みのあるテクノロジーの一つとなりました。現実世界に突然非現実的なものが出現する驚きは、一度体験してみなければわからないエンターテイメントでもありますが、最近ではさまざまな業種で実践的に運用されるケースも増えています。
SF映画のような体験を現実にするAR技術ですが、ブームの火付け役として大きいのは「ポケモンGO」の存在です。今回は、ARゲーム、ひいてはARというテクノロジーの普及に大きく貢献し、今でも多くのファンに愛されているゲーム「ポケモンGO」について詳しく解説していきましょう。
ポケモンGOとは
ポケモンGOは、AR機能を使って現実世界とゲームの世界をリンクさせ、現実の街中を歩くことでポケモンを集めていくゲームです。
公式サイト:POKEMON GO
開発は任天堂ではなくNiantic Labs
ポケモンGOの開発を主に行っているのは、Niantic Labs(ナイアンティック)というアメリカのモバイルゲーム企業です。元々はGoogleの社内プロジェクトとして立ち上がったナイアンティックは、Ingress(イングレス)という位置情報を用いたARゲームを開発し、一躍ARゲーム開発におけるパイオニアとしての地位を築きました。
2015年にはGoogleより独立を果たし、株式会社ポケモンが構想していた「ポケモンGO」プロジェクトに参入を果たしました。2015年10月にはGoogle、任天堂、ポケモンの3社より計3,000万ドルの資金を調達し、2016年にポケモンGOの正式リリースを開始。
リリース後のわずか1ヶ月で、ダウンロード数は1億3,000万件、売上高は2億ドルを超えるなど次々と記録を打ち立てていき、世界中で社会現象を巻き起こしたのでした。
タッチスクリーンで感覚的に操作
ポケモンGOの操作はいたって簡単で、タッチスクリーンを用いて誰でも遊ぶことができます。ポケモンGOの基本的な遊び方は、簡単に説明すると次のようなプロセスになっています。
- 街を歩いてポケモンを探す
- スマホに表示しているマップ上にポケモンが現れる
- ランダムに現れたポケモンから捕まえたい種類をタップする
- 戦闘シーンに突入しタッチスクリーンを使ってモンスターボールを投げる
- 捕まえるかポケモンが逃げてしまうまでモンスターボールを投げ続ける
複雑な操作はまったく発生せず、街を歩きポケモンをタップし、タッチスクリーンでモンスターボールを投げるだけで楽しむことができます。
他にも、各地に用意されているジム戦や捕まえたポケモンの育成など、さまざまな楽しみ方を体験できることが、プレイヤーを飽きさせない工夫として機能している様子がうかがえます。
ポケモンGOの仕組み
このように、魅力的なコンテンツをしっかりと盛り込んでいるポケモンGOですが、その裏には質の高いAR技術が導入されていることも背景にあるでしょう。その概要を紹介していきます。
GPS型ARを活用
ポケモンGOが主に採用しているのは、「GPS型AR」と呼ばれる技術です。GPS型ARについての詳しい説明は後述しますが、端的に言えばプレイヤーの位置情報をアプリが取得し、それに合わせゲームが展開するという仕組みです。
また、ポケモンゲットのシーンに突入すると、スマホカメラと連動させることにより、カメラが捉えている現実の映像の中にポケモンが出現する演出を楽しむことができます。このような現実世界とゲームの世界がARによって結びつく体験が、ポケモンGOの人気を下支えしているとも言えるでしょう。
新しいAR技術も積極的な導入
2016年にリリースされた際、ポケモンGOのAR機能は必要最低限の機能にとどまっていました。しかし、2023年現在もポケモンGOはAR関連のアップデートを続けており、徐々に新しい機能の追加が進められています。最近話題となったAR機能のアップデートとしては、「ARブレンディング」機能が挙げられます。
ARブレンディングは、現実世界のオブジェクトとARによって表示されるオブジェクトが、よりインタラクティブに機能し合う仕組みを有しており、「オクルージョン」とも呼ばれます。ポケモンGOにおいては、現実空間にポケモンをARで投影する際に機能します。ポケモンをARカメラを通じて表示することにより、ポケモンが木々や岩場の陰に隠れたり、しっかりと地面を認識して立つことが可能になるのです。
これまでは単に現実世界にポケモンをARで表示するだけの機能にとどまっていましたが、今後はより現実空間とポケモン世界の融合が進んでいくことになりそうです。
AR技術の全体像について、より詳しく知りたい方には以下の記事もお勧めです。
ポケモンGO AR+とは
ナイアンティックによるARと現実世界の融合は、ARブレンディング機能の搭載以前からも行われてきました。例えば、2017年末に登場したポケモンGOの新機能「AR+」は、ポケモンを捕まえるまでのプロセスをよりリアルな捕獲体験となるよう、新しい空間認識機能などを追加した専用モードです。
従来のポケモン GOとの違い
これまでのポケモンGOの追加機能としてアップデートされたAR+ですが、明確な違いとしてAR+には距離の概念が追加されたことが挙げられます。
基本的なポケモンGOの場合、ARカメラでポケモンを表示させても配置されるポケモンとプレイヤーの距離は変わりません。どれだけポケモンに近づこうとしても、その距離は一定となっていました。
しかし、AR+機能を利用することでポケモンの場所は出現した位置に固定され、実際にポケモンのそばまで歩み寄ることができるようになりました。位置情報を自動的に計算し、プレイヤーはまるで本当にポケモンが現実に現れたかのような感覚をARを通じて味わうことができるようになったのです。
ポケモンGO AR+の遊び方
ポケモンGO AR+の基本的な遊び方については、ポケモンGOと大きな違いはありません。ポケモンに対してモンスターボールを投げて捕まえるだけですが、そこに至るまでのアプローチに違いがあります。まず、プレイヤーはフィールド上でポケモンを見つけてタップすると、ポケモンが隠れている草むらをARカメラを使って探し出さなければなりません。
ARカメラで見つけた草むらをタップするとポケモンがそこから出現し、捕獲が可能になります。現れたポケモンには実際に近づくことができ、距離を縮めれば縮めるほどポケモンの警戒度は高まります。ポケモンに近づくと間近でその姿を見ることができる反面、警戒度が高まり捕獲が困難になるだけでなく、近づきすぎると逃げ出してしまうこともあります。まるで本物の生き物を捕獲するような感覚を、AR+モードでは味わえるということです。
GPS型ARの特徴
プレイヤーにポケモンとの物理的距離を与え、街中にポケモンを出現させ、どこでも遊べる環境を生み出しているのが、「GPS型」と呼ばれるAR機能です。この機能について解説していきましょう。
GPS型ARとは
GPS型ARは、その名の通り位置情報サービスを使い、ARコンテンツを体験できるようにする仕組みです。ユーザーの現在地や進行方向、方角、スマホの傾きなどをインプットして機能するよう作られており、地図アプリなどとの相性が非常に良いシステムです。
ポケモンGOのAR+においてポケモンとユーザーの距離が開いたり縮んだりするのは、アプリが正確にユーザーの位置情報をインプットする機能がしっかりと動作しているためです。
GPS型ARのメリット
GPS型ARの強みは、拡張現実をより優れた空間へと仕上げるため、ユーザーの位置情報をしっかりと捉えられる点にあります。
例えば、空間認識型ARは確かに正確に現実空間に即した仮想上のオブジェクト表示を正確に行うことはできるものの、ユーザーの距離感を度外視しての表現となります。
そのため、オブジェクトの表示とユーザーの見ている視点では遠近感に異常が生じてしまいやすく、違和感のあるAR体験を提供してしまうこととなります。こういった事態を回避するためにも、GPS型は大いに役立ってくれます。
他のAR技術と組み合わせることで、さらにリッチな体験を提供できるようになるでしょう。
ポケモンGOが人気の理由
それでは、ポケモンGOはなぜこれほどまでの人気を誇るようになったのでしょうか?その理由について考えてみましょう。
世界的IPとの高い親和性
一つは、ポケモンGOが完全オリジナルのARゲームではなく、「ポケモン」という世界的に知名度の高いIP(知的財産)を用いたゲームであることが挙げられます。ポケモンGOが登場した当時、ARを使ったゲームはまだそこまで一般的には普及していませんでした。
ナイアンティックがポケモンGO以前に手がけていた位置情報ゲーム、「Ingress(イングレス)」はARゲームの先駆けとして高い評価を得ていましたが、あくまでゲーマー層の評価です。
しかし、ポケモンGOは世界中の誰もが知っているブランドを活用したアプリです。普段はゲームをしない層にも、そのキャラクター性を生かしてしっかりと認知してもらうことに成功しました。
そして、ポケモンとARの組み合わせは非常に親和性が高かったことも理由の一つとして挙げられるでしょう。元々の「ポケットモンスター」シリーズもまた、野生のポケモンを捕まえるために各地を冒険するというRPGに仕上がっています。
「いつか本当のポケモンをこの手で捕まえてみたい」という少年少女たちの夢を、ポケモンGOはARによって実現したというわけです。現実には存在しないはずだったポケモンを、AR技術によって呼び出すことに成功したのは、ポケモンに親しみのある幅広い層に衝撃を与えました。
継続的な追加コンテンツ
ポケモンGOはリリース直後の滑り出しも非常に好調でしたが、当時から4年近く経った2020年現在でも、多くのユーザーがプレイし続けています。
アクティブユーザーが依然として高い数値を記録しているのは、一つに継続的なコンテンツの追加を続けている点にあります。ポケモンGOリリース当初、ポケモンの数は初代ポケモンシリーズの種類に限定されていましたが、時が経つにつれて少しずつ新たなポケモンが出現しています。
コンテンツを少しずつの小出しにすることで、離脱したユーザーが戻ってきたり、現行のアクティブユーザーのモチベーションを削がないようにしたりといつまでも遊べる設計になっています。現在も毎年7月には大々的なキャンペーンを実施するなどして、常にゲームを盛り上げるための施策を展開している様子が伺えます。
スマホでのプレイ
ポケモンGOが多くの人に遊ばれている最大の理由は、スマホでのリリースが行われたことにもあるでしょう。昨今、ゲーム市場は年々大きくなっていると言われていますが、その市場の拡大を支えているのがスマホゲーム市場です。スマホゲーム市場は着実に成長しており、2018年度には日本国内だけで1兆850億円もの規模となりました。
参考:矢野経済研究所「2018年度の国内スマホゲーム市場規模は前年度比5.4%増の1兆850億円」
一方、家庭用ゲーム機市場も成長を続けてはいるものの、2019年時点ではその規模はスマホゲーム市場の半分にも満たない4,300億円程度に留まっています。
参考:ファミ通「「ファミ通」2019年国内家庭用ゲーム市場規模速報」
これらのデータからも、スマホゲームがいかに大衆へ普及しやすい媒体であるかがよくわかるのではないでしょうか。特定のゲーム機への配信となる場合、まずはプレイのためのハードウェアを購入しなければならないため、ゲーム機を持っていない人はプレイすることができません。
しかし、スマホの場合は今や老若男女を問わず、誰でも肌身離さず持ち歩くハードとなっています。一度ブームに火がつけば、多くの人がダウンロードできる環境にある以上、爆発的なダウンロードを生むことになるのは間違いないでしょう。これらの好条件が整っていたからこそ、ポケモンGOは世界的な人気作品となりました。
ポケモンGOの経済効果とビジネス活用
皆さんはポケモンGOの経済インパクトをご存知ですか?あるいは単なるゲームと捉えていますか?ポケモンGOの開発元である米ナイアンティックによると、鳥取砂丘にレアポケモンを出現させたことにより世界から9万人の人が集まり、3日間で数十億円の経済効果があったとされています。
関連記事:鳥取砂丘で「ポケモンGO」、3日間で8万7000人来場 経済効果は十数億円
もしそんなレアポケモンが自分のお店に出現してくれるとしたらどうでしょうか?集客効果に期待してしまいますよね。そんな夢のようなプログラムが開始されましたので、この記事ではそのプログラムについてご紹介させていただきます。
ポケモンGOの「お店応援プログラム」
ポケモンGOを提供するNiantic社はこの数ヶ月、地域を支える多くのお店が困難に直面した状況を鑑みて、世界中のお店を応援する新たな取り組みを発表しました。このプログラムはユーザーからの推薦を受けたお店の中から1000店舗を選定し、対象となったお店には1年間無料でポケモンGOにポケストップ、もしくはジムとして登場する機会を提供するという内容です。
推薦され、選定されたお店はポケモンGOのマップ上にポケストップ、ジムとして登場し、ゲーム内でプロモーションを行える機能を利用できるようになります。これにより周辺のプレイヤーへお店・企業の場所をお知らせし、商品の紹介などを提示、ゲームを活用してそこに訪れるプレイヤーと楽しくつながる機会が提供され、地域経済活性化に貢献することが期待されます。
Image Credit:PokemonGO
ポケモンGOとお店経済のこれまでの取り組み
実際にこれまでにもポケモンGOは地域の小売経済に貢献してきました。特に有名な事例として、セブン-イレブンとの取り組みがあります。2017年4月にセブン-イレブン・ジャパンはポケモンGOの開発元である米ナイアンティックとパートナーシップ契約を締結し、全国約1万9000店のセブン-イレブン(一部店舗除く)が「ポケストップ化」しました。
一例ですが、ポケストップとなったセブン-イレブンでは「スペシャルウィークエンド」という企画が催されています。このイベントでは普段出会えない激レアポケモンたちと出会えるイベントの会場としてセブンイレブンが設定されて、多くのユーザーの誘致に成功しています。ユーザーが激レアポケモンと出会えるイベントに参加するためには以下のステップが必要です。
- 予め参加券の申し込みを行い、参加券を入手しておく
- ポケストップ(セブン-イレブン)にチェックイン
- 参加券にプリントされているバーコードをスキャン
このようにしてユーザーはセブン-イレブンへと足を運び、その一環としてコンビニで消費をしてくれるという経済が成立しています。このような経済的恩恵を大企業だけでなく地域のお店が享受できるというのは素晴らしいことですね。
ポケモンGOが単なるエンタメだけでなく、ビジネスとして経済効果を持つことが確認できる事例として紹介させていただきました。
ポケモンGOに似た人気ARゲーム
ポケモンGOの登場以来、スマホゲームには類似アプリも登場してきました。最後に、ポケモンGO同様GPS型ARを活用した、質の高いARゲームアプリを3本紹介します。
ドラゴンクエストウォーク
公式サイト:ドラゴンクエストウォーク
一つ目は、2019年6月にリリースしたスクウェア・エニックスとコロプラの共同開発による「ドラゴンクエストウォーク」です。基本的な遊び方はポケモンGOと一緒で、現実のマップ上に表示される目的地へ向かって歩きながら、道中のモンスターを討伐していくという仕組みです。ポケモン同様、「ドラクエ」も国内では人気の高いIPであり、リリース時には大きな注目を集めました。
ハリー・ポッター:魔法同盟
公式サイト:ハリー・ポッター:魔法同盟
一方、海外において「ドラクエウォーク」とほぼ同時期に話題となったのは、「ハリー・ポッター:魔法同盟」のリリースです。ハリー・ポッター:魔法同盟は大人気ファンタジー「ハリー・ポッター」シリーズの世界観を取り入れたARゲームで、ポケモンGOのようなプレイを独自の世界観で楽しむことができます。ハリー・ポッターもまた海外ではポケモン同様に人気の高いIPであるため、注目度の高い作品であったことがわかります。
Minecraft Earth(マインクラフトアース)
公式サイト:Minecraft Earth
Minecraft EarthはポケモンGOとは違い、空間認識に特化したARを用いたゲームとなっています。大人気PCゲーム「Minecraft(マインクラフト)」をAR化した作品ですが、元々はゲーム内でブロックを積み重ねて好きなように建築や土地の開拓を行なうゲームです。しかし、Minecraft Earthにおいては、現実空間でも同様にブロックを敷き詰めたりひたすらに積み上げて、架空の建物をARカメラを通じて完成させることができます。マインクラフトは人気IPということもあり、世界中で注目の的となった作品となりました。
最新の動向
ポケモンGOを提供するNiantic社の最新の動向として、2022年3月にはWebARの世界的リーダーである「8th Wall」を買収したことが発表されました。
Niantic社は、ポケモンGOのような一般向けのアプリだけでなく、ポケモンGOを開発する技術インフラである「ARDK」をAR開発会社向けに提供しています。ポケモンGOの裏側にあるテーマとして、彼らは自社のAR技術を世界中のAR開発のインフラとして使われるようにする戦略を進めています。
そういった文脈においては、8th wallはすでに多くのAR開発会社を世界中でパートナーとして有しており、さらにNianticがこれまで有していなかった「Webブラウザベース」でのARも提供可能になっていくことも想定され、彼らのエコシステムを発展させる上で非常に重要な買収になったと言えるでしょう。
詳細はNianticの公式サイトにて掲載されていますので、よろしければご覧ください。
まとめ
ポケモンGOがARゲーム界隈に与えた影響は絶大で、今後のARゲームのあり方における一つの指針を提示しました。GPS型ARにとどまらず、優れた空間認識能力のあるAR技術をうまく組み合わせながら順調にファンを拡大しています。常に最先端のAR技術が取り入れられる今作の動向を追いかけることで、次世代のゲームのあり方を体験することができるでしょう。
本メディアを運営するOnePlanet社では、ポケモンGOを運営するNiantic社の技術インフラを活用したAR開発を提供しています。
Niantic社が2022年に開催した「ウィンターチャレンジ」という世界中のARの開発会社が参加したイベントでは、OnePlanetが開発したアプリケーションが2本も入賞しています。
ポケモンGOの裏側にあるAR技術や、その活用方法についてご興味がある際にはお気軽にご相談ください。