この記事はSnapchatで知られるSnap社が開発しているARグラスである「Spectacles」について解説した記事です。
特に最新の動向として、海外メディア「IndianExpress.com」に掲載されたSnapのハードウェア「Spectacles 3」の責任者へのインタビュー記事の内容や、2022年3月に買収したニューロテック企業に関する情報に触れながら、スマートグラスとAR(拡張現実)の未来について考察した内容になっています。
目次
SnapのARグラス「Spectacles」とは
「Spectacles」とは、Snapchatの開発元であるSnap社が提供するARグラスです。
スマホに代わる端末として目される一般消費者向けの「ARグラス」を目指してSnapが開発してきたものですが、従来のSpectaclesは単なる「カメラ付きのサングラス」でした。
しかし、2021年5月に発表された第4世代「Spectacles」は、ついにARに対応したことで話題になりました。
長時間の装着を想定するARグラスにおいて非常に重要になる「重量」については134gとなっており、大きなコンピューターを搭載している他社のARグラスに比べるとかなり軽量で見た目もスタイリッシュです。
しかし、その代償にバッテリー持続時間は1回の充電で30分と短いのが特徴です。
Spectacles以外のARグラスについて、各重量やバッテリー時間などにご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
参考:AR/MRグラスとは?スマートグラスとの違いと、代表的な12種類の解説
また、SnapchatおよびSnap社について基本的な情報を知りたい方は、以下の記事もおすすめです。
参考:Snapchatって何?今さらだけど気になる人のために考察まとめ記事を書いてみたら、Facebookとの戦いの歴史だった
Snapのハードウェアユニット「SnapLab」が向き合う研究テーマ
Snapのハードウェア「Spectacles」の開発を担うのは、Snap社内のハードウェアユニット「SnapLab」です。
このチームを率いるのは2018年にSnapのハードウェア部門の製品設計のディレクターとしてSnap Incに入社し、ハードウェア開発の責任者を務めているSteen Strandです。
彼の仕事は、テクノロジーの世界で最も挑戦的であり刺激的な仕事の1つと言えるでしょう。
彼はチームとともに、拡張現実を備えた新ジャンルの製品である「ARグラス」を中心とした新しいエクスペリエンスの創出を任されています。
日本での販売については、欧州の有名百貨店でデジタルガジェットのセレクトショップを展開するSmartech(スマーテック)により阪急メンズ東京(有楽町)と阪急百貨店(大阪・梅田)の2店舗で販売されており、価格は約5万円で販売されているようです。
Steen Strand氏によると、「Spectaclesはファッションアクセサリー、ARグラスとしての機能の両方がこの市場で成功するためには非常に重要であると考えている」と語っています。
Image Credit:Snap Inc
SnapのARグラスのファッション性へのこだわりとしては、過去にラグジュアリーブランドのGucciとコラボした限定版を発売したことさえありました。それほどにこだわっているという意思が垣間見えます。
機能については3D画像とビデオをキャプチャする2台のHDカメラを搭載して、ユーザーが新しいAR効果を適用できるように常に構想されています。
ARグラスにおいてユーザーが満足できるような体験を提供するためにはどのような機能が必要となるのか、Steen Strand氏は以下のように述べています。
私たちは複数のプロトタイプに取り組みましたが、製品の焦点は常に“深度”にありました。そのためこれらのプロトタイプにはすべて2台のカメラを搭載するように設計されていました。
深度(Depth)とは
ここで言う「深度」とはDepth(デプス)とも呼ばれ、要約すると「3次元空間の奥行きのデータ」のことです。
この深度を計測できるデバイスから取得した3D空間のキャプチャデータのことを「深度マップ」と呼びます。
深度マップを生成することがなぜそこまで重要かと言うと、その大きな理由の一つには“オクルージョン(Occlusion)”と呼ばれる技術があります。
オクルージョンとは、「デジタルオブジェクトを現実世界の物体の前後に正確に表示すること」を指します。
オクルージョンがないAR体験では、あらゆデジタルオブジェクトが人や物の手前に表示されるなど、表現にリアリティを欠如してしまいます。
オクルージョンを実現することで、デジタルオブジェクトを実際の光景と合成し、それが実際にその場にあるかのように感じさせることができるようになります。
オクルージョン技術を紹介する代表的な事例として有名なのが、以下のポケモンGOの動画です。この技術によって、デジタルオブジェクトがまさにそこにいるように感じられることが分かるかと思います。
ARグラスの見た目と性能を両立させる難しさ
そもそも2台のカメラをSpectaclesに追加するのは比較的簡単に見えるかもしれませんが、実際のプロセスははるかに複雑だったとのことです。
舞台裏では、ハードウェアとソフトウェアの両方で多くの複雑な処理があります。
2つのカメラから画像を取得し、それらを処理して“深度マップ”と呼ばれるものを作成するために必要となる多くの作業があるためです。これはかなり複雑なアルゴリズムです。
また、洗練された正確な深度マップを取得するためには、多数のステップがあります。
それが私たちが実際にこれらのビデオデータを取得して、そのデータをクラウドに転送し、そこで処理を行ってから、携帯電話に送り返す理由です。
Spectaclesのようなスマートなアイウェアの設計においてSteen Strand氏は、
テクノロジーを兼ね備えたファッション性の高いアイウェアを実現する上での課題は、最終的には見栄えのよいフォームにする方法に関するものが多くを占めます。必要なすべてのものを小さく、軽く、快適にする必要があるのです。
日常的に身につけるARグラスは、スマートフォンとは大きく異なる課題を抱えていることが理解できます。
Image Credit:Snap
すべての構成要素や回路をARグラスの中の小さなスペースに収めると、(発熱して熱くなってしまう/バッテリーの消耗が激しいなど)電力と熱の管理にいくつかの大きな課題が生じる可能性があります。
上記のようなハードウェアの問題と合わせて「製品がスマートフォンやクラウドとどのように通信し、深度情報とデジタルオブジェクトの前後をどのように認識して、どのように視覚的な効果を処理するか」などのソフトウェアの問題にもチームは同時並行で対処していく必要があります。
ARが社会において重要な役割を果たすことは明らかですが、その実現には多くの困難があります。
Steen Strand氏の率いる「SnapLab」は、それらをSpectaclesで実現しようとしています。
2022年3月にはニューロテック企業の買収も
このように、世界でも最先端のARグラスを研究するSnapですが、2022年の3月には「NextMind」というニューロテックの企業を買収しました。
このNextMind社は、頭の後ろに装着する独自のハードウェアを通じて脳から電子信号を読み取り、その電子信号を活用してコンピューター上に表示する画像データを制御するサービスを提供しています。
脳からの電子信号を活用して、それを画像データに反映させるということは、まるでSF映画のように頭で考えていることをそのまま視覚化させるようなことが実現できる技術ということです。
この買収は、長い時間軸でSnapのARグラス「Spectacles」に大きな影響をもたらす可能性を秘めていますね。
詳しくは以下の記事にも記載されているのでご覧ください。
参考:Snapがパリのニューロテック企業「NextMind」を買収、ARハードウェアを強化
SnapがARグラスに投資し続ける理由とは
Snapは、2016年後半に発表された最初の「Spectacles」、続いて発表された「Spectacles 2」でも商業的に成功していません。それにもかかわらず、Snapは年々新しいバージョンのSpectaclesをリリースし続けています。
SnapのCEOであるEvan Spiegel氏は、この「Spectacles」プロジェクトに初日から関与しており、徹底した投資の姿勢を貫いています。
Snapは明らかにARの未来を見ており、Snapのあとを追うように後発参入は続いています。
AppleとFacebookはARメガネに取り組んでいると噂され、MicrosoftはすでにHoloLensと呼ばれるARヘッドセットを開発者限定で販売しています。また、Googleは直近でARグラス関連の技術を有するスタートアップ「North」や「Raxium」を買収しました。
eコマースの巨人であるAmazonでさえ昨年、「Echo Frames」と呼ばれるAlexa対応のメガネを発表したので、スマートグラス市場は加熱するばかりです。
ARグラスに参入する各プレイヤーは最終的にはスマートフォンに取って代わるスマートグラスを見ていますが、それにはしばらく時間がかかります。Steen Strand氏は以下のように述べています。
将来的にARグラスの使用は劇的に増えると私たちは考えていますが、十分な機能を備え、非常にアクセスしやすい価格帯で提供し、この事業で成功するためには、少なくとも10年はかかるでしょう
この先もARグラスを巡る各社の展開から目が離せません。
まとめ
日本ではあまり馴染みのないSnapchat(スナップチャット)ですが、彼らは自社のことを「カメラ会社」と呼んでおり、今後ハードウェアにおいてもその影響力を延ばす可能性が十分にあります。
「ARマーケティングラボ」を運営するOnePlanetでは、ARグラスを活用したアプリケーションの開発で多くの実績を有しています。
また、SnapchatやInstagramを活用したブランド向けの特別なARエクスペリエンスを国内で先駆けて開発・提供しています。
ARのビジネス活用を検討していましたら、お気軽にご相談ください。
参考記事:Interview: Snap’s hardware head on Spectacles 3, future of augmented reality