イーサリアムが抱えるガス代等の問題解決策の全体像を解説|レイヤー2、EVM互換性、ZKロールアップなど

イーサリアムを使ってNFTを取引すると、高い「ガス代」が気になりますよね。

この記事はまず、イーサリアム等のメインのブロックチェーンが抱える問題にアプローチをする「レイヤー2」と呼ばれる技術について、その前後にある文脈から平易に解説していきます。

そして、その「レイヤー2」の中でも特に近年注目されている「ZK Rollup」および「ZKP:Zero-knowledge proof(ゼロ知識証明)」について特に深掘りして解説することで、イーサリアムが抱える問題が解決される未来がどのように実現されていくのか、その全体像が掴める状態になることを目的として記述しています。

前提|イーサリアムの優れた特徴と主な用途

まず前提として、イーサリアムはセキュリティを損なわないスケーリング」を志向しています。この「セキュリティとスケーリング」というポイントが重要です。

イーサリアムはその特徴から、用途としては大きな金額を扱う「DeFi」や、改ざんができないことを前提とする「NFT」が大きな割合を占めています。

NFTは知っているけどDeFiを知らないという方は、以下の簡易説明をご覧ください。

Defi(ディーファイ)とは

DeFi(ディーファイ)は、Decentralized Financeの略です。日本語で「分散型金融」と訳されます。要約すると、従来の金融のような「中央管理者」を必要としない、ブロックチェーン技術を起点とした新しい金融アプリケーションのことです。既存の金融に代わる新しい仕組みとして、近年注目を集めています。

昨今、DeFiやNFTが大きな話題を集めているのはイーサリアムのようなセキュリティが堅牢なブロックチェーンによるおかげであるという説明もできます。

セキュリティがしっかりしているからこそ、改ざんを許さずNFTが唯一無二であることを証明できたり、DeFiで大規模な金額の取引を任せたりすることができるという訳です。

イーサリアム経済圏は大渋滞によりガス代が高騰

NFTやDeFiなど、従来は実現できなかったブロックチェーン技術を活用した様々なアプリケーション(Dapps)開発を実現させたイーサリアムは、優秀すぎるがゆえに大渋滞を起こしました。

Dapps(ダップス)とは

Dapps(ダップス)とは、Decentralized Applicationsの略称です。日本語では「分散型アプリケーション」と呼ばれます。「スマートコントラクト」と呼ばれるブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組みを応用したもので、イーサリアムなどのブロックチェーン上でスマートコントラクトを利用することで実現できるアプリケーションのことを総称します。

この渋滞により、イーサリアムで取引をする際の手数料=ガス代は高騰し、処理のスピードにも時間が必要になってしまいました。

ガス代の高騰はもちろん、取引がいつまで経っても確定されない処理に時間を要する状況についても、ユーザーにとって不利益を被る可能性が高い大きな問題といえるでしょう。

実際にエンドユーザーにとってはガス代の高さが原因となり、イーサリアム上で取引を実行するのは本当に必要なときに限られてしまう状態を招いてしまっています。

イーサリアムの問題を解決する技術が「レイヤー2」

ガス代が高騰するとユーザーが気軽にイーサリアムを使えないため、多くのユーザーに使ってもらうことができません。

このことを一般的に「イーサリアムのスケーリング問題」と呼び、イーサリアムのスケーリング問題を解決するための技術の1つとして「レイヤー2」という存在があります。

ブロックチェーンのレイヤー構造

ビットコインやイーサリアムのようなメインのブロックチェーンのことを「レイヤー1」と呼びます。

イーサリアムは単独でも大変優秀な存在ですが、優秀であるがゆえに多くの取引が生まれ、それによって生じてしまうガス代のような問題を「レイヤー1」の外で解決を目指す技術のことを「レイヤー2」と階層を分けて呼称します。

レイヤー2のメリットは、ビットコインやイーサリアムなどのメインのブロックチェーン上で処理を行わないために、ブロックチェーン本体のシステムの処理に負荷がかからず、高速な処理ができることでスケーラビリティ問題を解決できることにあります。

このように、ブロックチェーン外部で取引を行うことを「オフチェーン」と呼びます。一方で、メインチェーンであるブロックチェーン上で処理することを「オンチェーン」と言います。

要約すると、交通渋滞が起こってガス代が高騰しているイーサリアムの問題を、イーサリアムの外で交通整理をしてから必要なデータだけをイーサリアムの中に書き込むことで解決しようという試みです。

しかし、高いガス代の圧縮に気を取られるあまり、堅牢なセキュリティを持ったイーサリアムの外に出てしまう(=オフチェーン)ことで、データの改ざんを許してしまいNFTが唯一無二であることを証明できなくなってしまったり、あるいは大規模な金額の取引を任せたりする時の安心を失ってしまったりするリスクが生じます。

そこで、イーサリアムの外で取引をすることと、イーサリアムの堅牢なセキュリティをそのまま使えることを共存させる必要性が出てきました。

イーサリアムのスケーリング問題を解決するレイヤー2の技術「Rollup」

イーサリアムのスケーリング問題を解決するレイヤー2の中でも特に「Rollup」という技術が注目されています。

ROLLUPS – The Ultimate Ethereum Scaling Strategy? Arbitrum & Optimism Explained

Rollupとはイーサリアムの外(オフチェーン)で計算したトランザクションを、セキュリティを担保できる形でまとめてイーサリアム(オンチェーン)に書き込む技術のことです。

Rollupが注目される理由は、レイヤー2(イーサリアムの外)としてガス代を圧縮しながら、同時にイーサリアムのセキュリティを利用できるという特徴が優れた点となっています。

ここでポイントになるのが、この記事の冒頭でもポイントになると伝えた「セキュリティ」です。

交通渋滞を緩和するためにイーサリアムの外(オフチェーン)でトランザクションさせて、セキュリティを担保する形でイーサリアムにデータを書き込むという流れ自体は簡単ですが、「どのようにセキュリティを担保するのか?」という点が非常に難易度の高い問題となっています。

このセキュリティの担保をするためのRollupのアルゴリズムには代表的な2つの方法があり、Optimistic RollupZK Rollupというの2つの有力なフレームワークが存在しています。

この記事では①Optimistic Rollupにも触れながら、特にいま注目されている②ZK Rollupについて深掘りしていきます。

①Optimistic Rollup

「オプティミスティック」は「楽観的」という意味です。

Optimistic Rollupその名の通り、以下のような流れでRollupを実行していく技術です。

Optimistic Rollupの概要
  1. 書き込まれるデータは問題ないであろうという前提(=楽観的な仮説 )
  2. 問題なければそのまま何もしない
  3. 不正の可能性を検知したときには、本当に不正かどうかを識別し「異議申し立て」を行う(この異議申し立てのプロセスを「fraud proof」と呼びます)
  4. 結果に応じてペナルティを課す
    • 不正だった場合には、不正者に対してペナルティとして供託していた担保を没収(担保を供託するルールがあります。)
    • 不正の証拠を提出する「不正を暴く人」も同じく補償金を提出しており、不正ではなかった場合は保証金削減の可能性
  5. イーサリアムを正しい状態に回復させる

昨年まではOptimistic Rollupが先行しており、その中でも「Arbitrum」というレイヤー2のプロジェクトは特に注目されていて、実際に大きな資金量も流入しています。

しかし、2022年になってからはもう一つのRollupのフレームワークである「ZK Rollup」がより一層注目されるようになってきました。

Optimistic Rollupは不正を検知したときに初めて異議を申し立てる(fraud proof)ことでセキュリティを担保する「性善説」的なフレームワークであることに対して、②ZK Rollupは逆に「性悪説」的にセキュリティを担保するフレームワークになっています。

②ZK Rollup

ZK Rollupはとてもシンプルな考え方です。

Optimistic Rollupと異なり、まず初めのレイヤー1にデータを書き込む段階で不正かどうかをチェックし、不正な場合はその場でそもそもの書き込みを拒否します。

重要なポイントとしては、そもそも無効なデータが書き込まれない仕組みなので、Optimistic Rollupで必要となる「異議申し立て」のような紛争解決のプロセスが必要がないことです。

この不正か否かを証明する手法のことを「ゼロ知識証明(Zero Knowledge Proof=ZKP)」と呼び、ZKPを活用したロールアップのことを「ZK Rollup」と呼びます。

イーサリアムの創業者として著名なVitalik氏は「Optimistic Rollupは過渡期の技術であり、長期的にはZK Rollupが支持されていくだろう」という考えを示しており、その点からも「ZK Rollup」はイーサリアムのスケーラビリティ問題を解決する本命としての期待が高まっています。

「ゼロ知識証明(Zero Knowledge Proof=ZKP)」とは?

「ZK Rollup」のプロセス自体はシンプルなので表面上の理解は簡単ですが、レイヤー1に書き込まれる際にそれが無効か有効かを判断するためには複雑な暗号化証明(ZK-SNARK)が用いられています。

ゼロ知識証明について、Wikipediaでは以下のように解説されています。

「ゼロ知識証明(ZKP)」とは

暗号学において、ゼロ知識証明(ぜろちしきしょうめい、zero-knowledge proof)とは、ある人が他の人に、自分の持っている(通常、数学的な)命題が真であることを伝えるのに、真であること以外の何の知識も伝えることなく証明できるようなやりとりの手法である。(引用:Wikipedia

この暗号化証明を行うために、暗号学者や研究者による多くの時間が必要となります。

ROLLUPS – The Ultimate Ethereum Scaling Strategy? Arbitrum & Optimism Explained

上記の画像はレイヤー2やロールアップを解説する以下の動画より引用させていただきました。より深くまでロールアップについて学習したいという場合は、本記事と合わせてこちらの動画(英語)を是非ご覧ください。

ZK Rollupの問題点「EVM互換性」

ZK Rollupはそのロジックが困難なため、「イーサリアムにあるプログラム」を互換性の高い状態に保つことが困難です。

「イーサリアムにあるプログラム」が互換性の高い状態にあることは、他のブロックチェーンにも簡単に同様のアプリケーションやライブラリを構築することができるため、プロジェクトの拡大や連携において非常に重要な役目を果たします。

例えば、「Uniswap」というイーサリアム上のアプリは、イーサリアムと互換性のある「BSC(バイナンススマートチェーン)」の上に簡単に作ることができます。

いちからBSCの上にDappsを構築するのは当然大きな工数を要しますが、互換性を持った状態で他のブロックチェーン上でも開発することができれば開発工数を大きく圧縮でき、プロジェクトの優位性となります。

こうしたイーサリアムの互換性を保つための役割を「EVM互換性」と呼びます。

「EVM(イーサリアムバーチャルマシン)」とは

EVMとは「Ethereum Virtual Machine(イーサリアムバーチャルマシン)」の略です。イーサリアムでコントラクトコードを実行するために開発された仮想マシンのことで、主にSolidityというプログラミング言語で記述されたコードが実行されます。

簡単にいうと「EVMとはイーサリアムにあるプログラムを動かしているプログラムのこと」であり、ZK Rollupは暗号化証明のロジックの難しさからその「EVM互換性」を作ることが困難なのでアプリケーションなどの汎用化に向かないとされてきました。

しかし、そのような汎用化への課題にも解決策を有するZK Rollupのプロジェクトも出てきています。

「ZK Rollup」で注目のプレイヤー

Rollupを活用した「レイヤー2スケーリングソリューション」は、メインとなるイーサリアムブロックチェーン(レイヤー1)よりも安価かつ高速なトランザクションを提供できるため、現在でも複数のプロジェクトが存在します。

その中でも特に注目されている「ZK Rollup」を活用したソリューションを提供するプレイヤーをいくつか紹介していきます。これらのソリューションを活用することで、イーサリアムのスケーラビリティ問題の解決を試みることができます。

①zkSync

zkSync」はドイツの首都ベルリンに拠点を置く「Matter Labs」というチームが開発するイーサリアムのスケーラビリティ問題に取り組むレイヤー2ソリューションです。

先述の通りZK Rollupはそのロジックの困難さから「EVM互換性」を作ることが困難ですが、この課題に対してzkSyncは大きな進歩を遂げています。

2021年にzkSyncはEVM互換性を持つZK Rollupである「zkEVM」のテストネットを予定より数年早く稼働させることに成功し、予想外の成果に注目が集まっています。

今後注目すべきプロジェクトと言えるでしょう。

②StarkWare

ゼロ知識証明をスケーリングに活用する企業「StarkWare」は、イーサリアムの共同創業者であるVitalikが投資していることでも知られているプロジェクトです。

Vitalik氏はイーサリアムの創業者であり、当然、イーサリアムが抱えるスケーラビリティなどの問題を解決するために努めている第一人者です。

Vitalik氏は「イーサリアムは中立ですが、私はそうではありません」という注意を促すツイートをしていますが、彼が数多あるプロジェクトの中でも投資をしているということから、イーサリアムの問題解決における有望性が垣間見えるでしょう。

③Polygon

Polygon(ポリゴン)は、これまでのプロジェクトよりは耳に馴染みがある方も多いのではないでしょうか。

Polygon(ポリゴン)は、Rollupとは異なる「サイドチェーン」と呼ばれる仕組みでイーサリアムのスケーラビリティ問題に取り組むプロジェクトとして見らています。

「サイドチェーン」とは

サイドチェーンとは、ビットコインやイーサリアムなどメインのブロックチェーンを「親チェーン」としたときに、親となるメインのブロックチェーンからサイドチェーンへと資産の移動を行うことができる技術。オフチェーン(イーサリアムの外)でトランザクションをさせるRollupとは異なり、イーサリアムそのものを機能拡張するという点が特徴。

サイドチェーンと見られることが多かったPolygonを運営するPolygon Networkは2021年8月、長期的にゼロ知識証明を用いたスケーリング技術であるZK rollupの技術に投資をすることを発表し、それと同時にZK Rollupを開発するチームである「Hermez Network(エルメスネットワーク)」を2.5億ドルで買収することも発表しました。これによりPolygonはレイヤー2で期待されるZK Rollupのソリューションを手に入れることになりました。

そしてさらに2021年12月には、ZK-Rollupsの研究開発を行う「Mir」の買収も発表しました。

前者の「Hermez Network」はすでに「Polygon Hermez」としてリリースされており、詳細はこちらのサイトからも確認することができます。

このように、イーサリアムのスケーラビリティ問題にサイドチェーンとして取り組んできた「Polygon」も、ZK Rollupを活用したソリューションを導入してくる展開がスタートしており、加速することも確実視され、今後もさらに注目すべきプロジェクトであると言えるでしょう。

まとめ

ブロックチェーン技術を活用した様々なアプリケーションは、これからメタバースの世界とも繋がってくるでしょう。

その中でも特にイーサリアムは、冒頭に述べた通り「セキュリティとスケーラビリティ」を志向していることから、NFTやDeFiなどブロックチェーン技術を活用した様々なアプリケーション開発に適しています。

実際に、「Decentraland」や「Sandbox」などメタバース的と呼ばれるNFTゲームの世界はイーサリアムのトークンベースで構築されています。

本メディア「ARマーケティングラボ」を運営する株式会社OnePlanetでは、ARやVRの未来がメタバースとして統合されていく未来を予測し、その世界を支える経済的なインフラがNFTやDeFiなどブロックチェーン技術をインフラとする「Web3.0」の世界だと考えています。

メタバースとWeb3.0は両輪となり、これまでになかった全く新しい世界を構築していくことでしょう。弊社ではそういった未来に向けて、様々な技術検証やプロダクト開発を進めています。

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