化粧品AR

現実世界にフィットするように情報を出現させるARは、日常のあらゆるシーンで見かけるようになりました。特に2017年頃からのARの技術の進化は目覚ましく、スマートフォンやタブレットでARを気軽に楽しめるようになった影響が大きいといえるでしょう。

今回は、化粧品業界におけるARの役割と化粧品・コスメ×ARの事例を紹介します。

化粧品業界におけるAR活用の背景

化粧品

化粧品業界では、消費者とのコミュニケーションにARを導入することで、あらゆる問題の解決につながるのでは?と早くから注目されていました。

デパートの化粧品売り場を想像してみてください、各ブランドのカウンターにコスメが所せましと並べられ、BA(ビューティアドバイザー/コスメの販売・接客をする店員)が鏡を前にして、お客さんにメイクをしている……という光景を見たことがあるでしょう。

お客さんは、気になるブランドやアイテムがあれば、実際にメイクをしてもらい、そのうえで購入を決めるというのが一般的な流れでした。

しかし、実はこの流れにはお客さんにとってもBAにとっても負担が大きいのです。

化粧しているところ

まず店頭で化粧品を試すとなると、今の化粧を落とさなければなりません。これは女性にとっては抵抗が大きく、なかなか店頭で「気軽に試してみよう」という気持ちになれないという問題があります。

いざ試そうとなると、今度はBAに声をかけて化粧を落とし、メイクをしてもらう必要があります。接客をしながらだと早くても数十分・長いと小一時間ほどかかることもあり、とにかく時間がかかります。

さらに、声をかけた時点で BAさんが全員接客中だと待ち時間が発生します。こうした原因が重なって、「新作コスメ、試してみたいけどめんどくさいな…」と売り場を去ってしまうことが少なくありません(筆者も経験があります)。

このように、「いろいろ試してみたいのに、気軽に楽しむのが難しい」という消費者の悩みと、「使ってもらえば良さが分かるのに、なかなか試してもらえない」という化粧品業界の悩みが両立していました。ARは、これらの問題を解決する手段として注目されています。

コスメのタッチアップを気軽におこなえるARが登場

化粧品業界における長年の問題を解決する手段として、「コスメのタッチアップをバーチャルでおこなえるAR」が登場しました。

2014年、イタリアの化粧品ブランド「Sephora」が、店頭でコスメをタッチアップできるARサービスを開始しました。「Sephora 3D Augmented Reality Mirror」と呼ばれたこのサービスは、タッチパネル式のモニターに自分の顔を映し、気になるアイシャドウを気軽に試せるサービスです。バーチャルなので質感や肌に合うか合わないかまでは分からないものの、たくさんのカラーバリエーションを効率的に試せることで話題となりました。

当時はスマートフォンやタブレットの顔認識技術が今ほど進化しておらず、コスメのタッチアップにおいてはやや不安定で、リアルなシミュレーションには至らないという問題を抱えていました。Sephoraの事例でも、タッチモニターに仕込まれたカメラで顔を認識していたようです。

現在の化粧品業界におけるARの役割とは?

シャネルの化粧品

近年、アパレル業界や化粧品業界ではオンラインショッピング市場が急激に成長しています。また若い世代においては、店頭でのタッチアップなどマンツーマンでの接客を好まない傾向が強まっています。それに伴い、店頭にいかずとも自宅で気軽にコスメを試せるARアプリの開発・リリースが進みました。

同時に、実店舗やイベントでARを使ったプロモーションをおこなったり、SNSで拡散を狙うためにARを組み合わせたり、といった取り組みが増えています。

化粧品業界におけるARの役割
  • オンラインショップ・Eコマース×AR
  • 実店舗・イベント×AR
  • ユーザーによるSNS投稿・拡散効果

それぞれ単体のAR施策とは限らず、複合させたAR体験を実現しているケースもあります。

オンラインショップ・Eコマース×AR

ARは、オンラインショップとの相性が良いデジタルコンテンツです。化粧品業界においては、わざわざ店頭に来なくても場所を問わずコスメを試せる仕組みを整えることで、オンラインショップでの売上アップにつながります。

いくつも気軽に楽しめることから、2個買い・3個買いといったまとめ買いを促す効果もあり、客単価アップも期待できます。近年、スマートフォンの顔認識技術の精度が飛躍的に向上したことにより、より本物に近い感覚でいろんなコスメを試せるようになっています。

実店舗・イベント×AR

オンラインショップの急激な成長の一方で、化粧品業界では店頭でのBAによる接客がまだまだ主流です。特に日本では、海外に比べてこの傾向が強いと言われています。

ここで問題なのが、BAがお客さん一人ひとりに十分な接客時間を割けないということです。店頭での接客にARを導入することで、効率よくタッチアップできます。

またお客さんの反応を見ながらピンポイントで商品をおすすめできるので、一人当たりの接客時間を削減できる効果が期待できます。お客さんにとっても、化粧を落とさずに気軽にコスメを試せるのは大きなメリットです。

さらに、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、非接触型の接客が求められる時代になったこともあり、ARを使った接客はますます加速していくと考えられます。

ユーザーによるSNS投稿・拡散効果

2016年頃に流行した「Snow」の人気ぶりからも見られるように、現在の若い世代は自撮りに抵抗がない人が多いといわれています。そして、SNSからメイクやコスメの最新情報を得ているのも、若い世代が非常に多いです。メイクした自撮り写真をアップする女性がSNS上でたくさんいることからも、その傾向がうかがえますね。

そうした女性達にとって、気軽にコスメを楽しめるARアプリは相性が良いコンテンツです。若い女性の関心を集めるコスメとSNSの掛け合わせには拡散性が高く、大きな話題を呼ぶ可能性を秘めているのです。

【目的別】化粧品×ARの事例5選

それでは、実際に化粧品業界でARを導入している事例を、次の2つのケースに分けて紹介します。どちらも兼ねているケースがありますので、分類はあくまで参考程度にお考えください。

化粧品業界におけるAR事例
  • ARを用いたスマートフォン向けメイクアプリの事例3選
  • ARを用いた店舗・イベントでのプロモーション事例2選

スマートフォン向けメイクアプリの事例3選

スマートフォン向けメイクアプリは、オンラインショッピングとの相性が非常に良いです。コスメをARで試した後、スムーズに購入まで完了できるのは、消費者にとっても大きなメリットです。

スマートフォン向けメイクアプリ
  • YouCamメイク
  • Amazon「バーチャルメイク」
  • YouTube「AR Beauty Try-On」

YouCam メイク

You camは、AIとARを組み合わせたバーチャルメイクアプリです。単なる画像加工ではなく、画面上の自分の顔に再現性の高いメイクを施すことで、自然な仕上がりのバーチャルメイクを提供できるのが最大の特徴です。顔の動きやカメラの寄り・引きにもかなり忠実に追従するため、かなり精度の高いバーチャルメイク体験ができます。

自宅にいながら気軽に好きなだけ新製品を試すことができることから、若い世代を中心に大人気のメイクアプリとなっています。2014年にアプリがリリースされ、現在のエンドユーザー数は全世界で3億8千万以上という人気を誇っています。

このアプリがリリースされた当時、スマートフォンの顔認識技術の精度がそれほど高くなかった時代です。しかし、You camの開発企業である株式会社パーフェクトが顔認識技術に関する高いノウハウを持っており、これをスマートフォン向けに応用することで、リアルに限りなく近い自然なバーチャル メイクを楽しめるアプリ開発に成功したのです。

化粧品業界のARアプリ事例といえばYou Cam!といっても過言ではないほどの存在感があるアプリで、現在では数多くの化粧品メーカーとコラボし、その数は200以上にものぼります。バーチャルメイクできるカテゴリも、化粧品・ヘアカラー・ネイル・カラーコンタクトなど多岐にわたります。

化粧品業界以外では、就職支援や人材派遣で有名な㈱リクルートがこのサービスを導入し、⾃分に合う「就活メイク」を提案するコンテンツを期間限定で公開しました。

就活メイク

画像引用元:リクルートキャリア

就活のとき、学⽣は第⼀印象にとても気を使います。また社会人向けメイクの加減が分からず、「適切なメイクの⽅法を知りたい」という根強い需要があるのです。

そこで、リクルートは、自分のなりたい印象8パターン(「柔らか」「アクティブ」「知的」「しなやか」「フレッシュ」「エネルギッシュ」「優しい」「爽やか」)からメイクを選択し、シミュレーションできるサービスを展開しました。学⽣は⾃分に合うメイクを⼿軽に試すことができ、実際に⾃分の顔にメイクアップする際のポイントも学べる、というものです。

リクルートの「⾃分に合ったメイクや、メイクによる印象の違いを知ることで、⾃信を持って就活に臨めるよう応援したい」という思いを形にした事例で、延べ8,000人の就活生が利用しました。最近ではこのアプリを店頭に設置して、普段使わないカラーや気になるアイテムを積極的にタッチアップすることを促す動きも出ています。

阪急百貨店うめだ本店ブログ

画像引用元:阪急百貨店うめだ本店ブログ

バーチャルでメイクを楽しめる珍しさに、足を止めるお客さんが増えているそうです。またYou Camで数あるコスメを試してみることで、お客さんからの「意外と似合う!」「これも悪くない!」という声を聞けるメリットがあります。BAにとっても、お客さんの欲しいものやメイクに関する悩みなどが分かり、接客がしやすいという効果も期待できるのです。

また、Webブラウザ上でコスメを試せる法人向けプラグインサービス「YouCam for Web」が開始されました。

専用アプリをダウンロードすることなく、公式サイトなどからブラウザ上でコスメ試着を楽しめるサブスクリプション型サービスです。マリークアントやクラランスなどの化粧品メーカーや、三越伊勢丹など化粧品を扱う小売業など、多くの企業が導入しています。

Amazon「バーチャルメイク」

Amazoneのショッピングアプリでは、一部の商品ページAIとARを活用したバーチャルメイク機能を搭載しています。フランスの化粧品会社「ロレアル」グループ傘下のモディフェイス(ModiFace)との共同開発です。

オンラインショッピングで化粧品を購入する際、「自分の肌に合う色かどうか」は大きく影響します。特に、リップはカラーバリエーションが豊富な上、顔の中でも目立つパーツなので、「購入前に色を試したい」という要望が強く、先だって導入が始まりました。

この表記がある商品は、バーチャルメイクができます。

※アプリからアクセスしないとでませんのでご注意ください。

メイク方法を選ぶ

このページから自分の顔写真を撮ることで、リップの色を変えて試すことができます。モデルを選んでシミュレーションもできますよ。

リップの色を明るめに変更

リップの色を暗めに変更

リップの色を少し明るく変更

気になるカラーを選んでバーチャルメイクを確認できます。リップの部分だけを認識して色を変えてくれるので、比較しやすかったです!

最近は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、店頭で自由に試せるテスターを設置していないお店が増えてきました。そんなとき、バーチャルで自由に試せるのは助かりますね。

写真保存もできるので、複数試してみて見比べてみたり、友人や知人に意見を求めたり、SNSに投稿してみたりといった使い方もできます。対象カテゴリーとブランドは随時増えているので、これからますます便利になりそうです!

YouTube「AR Beauty Try-On」

大手動画プラットフォームのYouTubeでも、デジタルコスメ試着サービス「AR Beauty Try-On」がテストスタートしました。YouTubeアプリ内にAR機能を搭載することで、コスメを動画を見ながらリアルタイムで試着できるようになります。

画面は分割表示されていて、上半分が視聴中の動画、下半分が自分のカメラエリアというデザインです。インフルエンサーが紹介している商品を選ぶと、自分のカメラエリアでARを使ったバーチャルコスメ試着が楽しめるという機能です。

メイク動画はYouTubeでも人気コンテンツの1つで、筆者もよく視聴します。でも紹介されている商品が気になっても、いちいち動画を止めて公式サイトや通販サイトに行って情報や口コミを見て……というのが、ちょっと面倒に感じることがあります。

そんなとき、動画を見ながらその場で色見をぱっと試せるのは便利ですね!現在はテスト期間ですが、実装されれば使用する視聴者はとても増えるのでは?と思います。

現在参画しているのはM・A・Cなどまだ一部の化粧品メーカーのみですが、今後さらにYouTube配信をする人が増えていけば、提携するコスメブランドも増えていくかもしれません。

ARを用いた店舗・イベントでのプロモーション事例2選

オンラインショップでの購入が増え続けている現在、実店舗はただ商品を購入する場所としては不十分です。実店舗やイベントは、オンラインショップでは満たせない「体験」を提供する場に変わりつつあると言えます。

本物に触れられる満足感を満たしたり、店舗だけのイベントや仕掛けでブランドメッセージを伝えたり……といった、「現実でしか味わえない特別感」を演出するために、ARはとても有効です。

店舗・イベントでのプロモーション事例
  • SK-Ⅱワンダーランド
  • Lush Labs

SK-II が仕掛ける美×テクノロジー「SK-IIワンダーランド」

SK-IIは、さまざなテクノロジーを活かしたプロモーションに力を入れているコスメブランドです。今回紹介する「SK-Ⅱワンダーランド」は、ホリデーシーズン限定のデザインボトルの世界観を表現したデジタルアートを、専用アプリでARを使いながら楽しむ、というイベントを開催しました(2019年1月24日で終了しています)。

ストア内にはデジタルの仕掛けをふんだんにつかったアートがたくさん並んでいます。ARアプリを使用すると、さまざまなオブジェクトやエフェクトが飛び出し、来場者が驚きと面白さを感じる空間となっています。

Googleが開発したAR Coreと、SK-IIの肌への知見を具現化したアートが組み合わさることで、ブランドの世界観を見事に表現した事例です。

バスボム専門店「LUSH原宿店」ではスマホアプリ「Lush Labs」で独自の世界観を楽しむ

LUSH

画像引用元:渋谷経済新聞

ハンドメイドコスメブランドの「LUSH」が、バスボム専門店「LUSH原宿」をオープンしました。バスボムは湯船に溶かして楽しむコスメで、試すには水回りの設備が必須です。

しかしこの店舗には、従来の店舗に用意されているシンクも、商品説明のPOPも一切置いていません。ではどうやって商品を選ぶのかというと、専用アプリ「LushLabs」を使用します。アプリ内のカメラ機能を使って店内のバスボムを映すと、商品名や価格や素材などの詳細な情報を確認できるのです。

スマホをかざす

画像引用元:LUSH公式サイト

またバスボムを試してみようにも、「使ったらなくなるからもったいないし、お願いするのも申し訳ない……」と感じるお客さんも少なからずいたそうです。そこで、バスボムを実物で試すのではなく、カメラでかざせば使ったときの映像が視聴できるようになっています。アートギャラリーのような洗練された店舗空間を壊さないよう、専用アプリとARを駆使した事例です。

また専用アプリ内には、原宿をはじめ世界7か国の街に隠されたバーチャルバスボムを見つけ出す「AR Global Hunt」という機能も搭載されています。

ヒントをもとにバスボムを探して街中を探すので、宝探し感覚で楽しめそうですね!

まとめ

化粧品やコスメにARを用いた事例を紹介しました。化粧品業界におけるARは、オンラインショッピングと相性が良いです。また店頭でARを使用することで、非接触型の接客やコミュニケーションを実現できる大きなメリットがあります。今後ますますARの利用は拡大していくでしょう。

本メディア「ARマーケティングラボ」を運営するOnePlanetでは、ARエフェクトの開発、ARを活用したキャンペーン拡散やブランディングなどお力添えできます。

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